「ハイネ会長なんて!ハイネ会長なんて・・・!!」

 

 

 

 

 

GAME START

 

 

 

 

 

一歩一歩、踏みしめるように歩く廊下。
周りに居た生徒が道を譲るように俺から離れていったから余程すごい形相をしているのだろう。
そうは思って落ちつこうとしても、思い出すのはあの憎らしい顔。


「ハイネ会長なんて!ハイネ会長なんて・・・!!」


さっきから何度もこの不快な気分を拭い去ろうとした・・・けれど無理だった。
苛立ちは増すばかりで、俺はふとなぜだか今朝のできごとを思い出す。

 

 

 

 

 

 

今朝、誰かに叩き起こされて目が覚めた。


起きた瞬間俺の目に映った部屋の天井はいつも見ているものではなく、
一体ここは何処なんだと辺りを見まわせば、買ったばかりのパソコンが目に入り、それがキラのものだとわかる。
そう、ここはキラの部屋だったのだ。叩き起こしてくれたのもキラだ。
まだはっきりとは覚醒していない頭で、今、自分を起こした相手を見れば眠たそうに目を擦りながら
「アスラン1度うちにかえったらぁ?」
とそれだけ言って、ベッドで横になっていた俺をそこから追い出し今度は自分がそこへ寝転がる。

「僕はもう一眠りするから〜。また学校・・で・・・」

声は次第に小さくなり、次に聞こえてきたのは寝息。
ベッドの下には先ほどまでキラが使っていたと思われる毛布と枕が散らばっていて、
彼がベッドを俺に譲ってくれたことがわかったが、どうしてここに居るのかだけは思い出せない。

・・・・・・・・えっと・・・・・たしか・・・・・・・・

キラを誘って公園でジュース片手に思い出にふけっていた・・・。
確かにそこまではしっかりと覚えている。
だがそこから先は、急に記憶がすっぽりと抜けており、
混乱する頭の中を振り払いながら俺は自分の鞄を手にキラの部屋を出た。
部屋を出る前にキラの目覚まし時計を見てみると、時刻は6時過ぎ。
抜け落ちた記憶からずっと眠っていたとなれば、久しぶりの長時間睡眠だ。
そのせいでさっきから少し頭が痛いのかもしれない。

 

いや・・・・・・・・違う。

 

頭が痛いのは、あのせいだ。
そう、カガリと会長のデート。

「・・・・・・・・・・・・・・」

頭の痛い理由をはっきりと思い出してしまって、
俺はそれを忘れるためにも駆け足で1階への階段を降りて行った。

 

「あら、アスランくん。おはよう」
「あ、おはようございます、カリダさん」

1階に下りればキラの母親のカリダさんがコーヒーを飲んでいたところで、俺は慌てて頭を下げる。

「昨日はすみませんでした・・・俺、記憶ないんですが・・・」
「あら!気にしなくていいのよ。あ、昨日キラがレノアさんに電話しておいたから安心してね」
「あ、はい。ありがとうございます」

俺はまたカリダさんに頭を下げた。
軽く何か作るから食べて帰りなさいと言ってくれたのだが、
少しでも早く家に戻らないと母の機嫌が悪くなると言ってその好意を断り急いで家を出る。
カリダさんはそんな俺を笑いながら送り出してくれた。

キラの家を出て気付いたが、そういえば昨日の晩は何も食べてないのだ。
腹が減っているのはわかりきったことで、俺は何となく自分の腹あたりをおさえてみる。
意識してしまえば本当に空腹で、俺は家路を急いだ。

 

 


「ただいま・・・・」
ずっと小走りだったためか、それほど時間もかからずいつもより早く家に着く事ができたが、
やはり朝帰りへの後ろめたい気持ちのせいで心なしか声が小さくなってしまっているかもしれない。
家の扉を開ける時もそろそろと、まるでこそ泥のようになってしまっていたし・・・・
そう思いつつ靴を脱いで、できればまだ母さんが起きてませんようにと願いをかけるも、
やっぱりその願いは叶わなかった。

「おかえり、アスラン」
「か、母さん・・・っ」

玄関前に出迎えに来てくれたのは、俺の母。
この人が早起きだなんて、まだ起きてませんようにと願いをかけた息子の俺が1番よくわかっている。

「まったく。キラくんに迷惑かけて・・・」
「す、すみません・・・・」
「もういいけど。でも貴方の初めての朝帰りの相手がキラくんね〜」
「か、母さん!」

茶目っ気たっぷりにそう言う母さんに俺は恥ずかしさに慌ててしまった。
とりあえず1度部屋に行って身支度を整えて朝食にしたいと、
俺は母さんのからかいの声を振り払って2階へとあがることにした。
雷が飛んでくるかもと覚悟を決めていたから、母さんが少しも怒ってなかったのは意外だった。
昨日の夜、キラがちゃんと電話で連絡してくれていたおかげのようだ。
これは本当に彼に感謝しなくてはいけない。パフェの一件も真剣に考えてやろう。

母親からのお叱りの言葉がないことに安堵した俺が階段の1段目を踏みしめた次の瞬間、

けれど、それ以上にとんでもない事態だったということを知る。

 

「せっかく昨日カガリちゃんが来てくれたのにね〜」
「えっ!?」

 

その言葉に、階段にかかりかけていた右足が滑りそうになったのをバランスよく持ち堪えた。
そして、まさか・・・・と思って鞄の中から携帯電話を探り出して画面を見てみれば、着信履歴が一件。
その相手は紛れもなく
「カ、カガリ・・・ッ」
だった。

「だらしない子ね・・・・」

それは多分きっと、朝帰りした俺に対してじゃなく、好きな子とすれ違った俺に対して言ったんだろう。

呆れではなく同情の目を向けた母さんは、その一言をいい終えるとキッチンへと姿を消し、
俺はしばらく呆然と、携帯片手に動けないまま立ち尽くしていた。

 

 

 

 

 

 

 

「ハイネ会長なんて・・・・・・・!」

そう、全ての元凶はあの人なのだ。
会長がカガリに声をかけなければきっと今度こそ念願の駅前デートだった・・・はず。
その上、今朝のことを思い出せば思い出すほど頭と胃ののムカツキはどうしようもないほど膨れ上がる。
家に帰ったあの後、少し時間をおいてカガリに詫びのメールを入れるも返信はなく、
今朝教室で会えたカガリに謝罪してやっとのことで許してもらうも、それからもどこか2人には距離があったような気がした。


だからこそこんな最悪な気分の真っ只中、「おまえのレベルは低い」と、この不機嫌の
<理由と原因>
に言われるのがすごく腹立たしかった。


第一そんなことを言われたのは初めてだ。
別に今までの自分を過大評価していたわけでもないが、過小評価していたわけでもない。
それなのに、あの時見せたハイネ会長の視線は言っていた。

おまえのようなやつに、カガリはもったいない、と。

あの人に何がわかると言うのか。
カガリと出会って好きになってからの十数年間、
自分がどれだけカガリを想って生きてきたかなんて何も知らないのだ。

例え知らないことだとしても、そんな風に思われるのは腹立たしくてたまらない。

・・・正直に思い返せば、確かに今まで自分は他人へと何かをしてあげることなんてなかったのは事実だ。
1年生の後期にも担任から生徒会に推薦されそうになった時に断った過去もある。
その時の理由は少しでもカガリといっしょに居られる時間を作るためで、
自分以外の人間のために動くなんてこと想像もしなかったからだ。

けれどそれが俺自身のマイナス評価になるのは許せない。
なぜならそれは誰もが思うことで、俺1人の我侭ではないはずだ。
自分にだけ対してあんな態度と行動を見せるハイネ会長に苛立ちを覚えてしまう。

カガリはもったいない、なんて、そんなこと絶対に言われたくない事なのだ。

「ハイネ会長なんて・・・!!!」

俺らしくないと言われそうな大声で、今日何度目かわからない不機嫌の理由と原因の名前を口にした時、
いつもならその気配だけでわかる『彼女』の声が俺の背後から聞こえてきた。

「会長がどうしたんだ?」

聞き間違えるはずがないその可愛い声。
俺は嬉しさを隠そうともせず、ほんの1秒前の苛立ちも忘れて笑顔で振りかえった。

「カガリ・・・・・!」
「よ」

片手をあげて、女の子にしてはちょっと乱暴な挨拶の仕方にも俺から見ればやはり可愛くて仕方がない。
どこかへ行っていたのか、手にはクリアファイル一枚。
鞄を持っていないことから、帰ろうとしていたわけではなさそうだ。
もしかしたら、仲直りの証に俺を放課後デートに誘いに来てくれたのかもしれない・・・っ

 

「カガリ・・・ッ」

 

アスラン、ごめんな、本当は寂しかったんだ。

 

きっと、そう言ってくれると思っていた。思っていたから、

 

「で、・・・・ハイネ会長がどうしたんだ?」
「は・・・・・?」

 

思ってもみない答に俺が返したのは間抜け声だった。


欲しくてたまらない優しい言葉を聞けるのを期待して胸を躍らせてたのに、よりにもよってなぜ、アイツの名前を出すのだろう。
俺はその言葉に不機嫌な表情を隠せずにいられなくなる。
できるならあの生徒会長の顔は綺麗すっぱりさっぱり忘れ、上手くごまかして本当にちゃんと仲直りして・・・
そう、あの時叶わなかった駅前デートをやり直したい。


ハイネ会長はカガリはデートを楽しんでくれたとか言っていたが、俺は彼以上にカガリを楽しませる自信がある。
カガリのことを1番想って1番わかっているのは俺だと、自信があるのだ。
俺のカガリの想いの深さなんて、最近ひょっこり現れた人間なんかに負けるはずがない。

 

『会長は忘れて、俺とデートで楽しもう』

 

たった一言なのに、そう、

そのたった一言をどう上手く切り出せばいいのかがわからずに、つい聞いてしまった。
聞かなきゃよかったのに聞いてしまったんだ。

 

「あ・・・・・・・その・・・・・・・・気に、なる?」

 

なんて。

 

 


「・・・・・・・・・・・・・・・」


無言になったカガリ。
返答に困っているのだろうか。そんなに真剣になんて悩まないでほしい。

俺はそんなことを聞きたいわけじゃないのだから。聞きたいはずもない。
自分の中のこの台詞を選んでしまった自分に後悔するも、口から出た言葉を撤回するのは難しい。
覚悟を決めてそれならせめてカガリが
「おまえ以外気になるはずもない」と夢のような回答をしてくれることを期待して待った。

きっと、カガリなら言ってくれる。
今までだって俺とキラと父親と、新星の格闘家以外の男の話なんて聞いたことがない。


だから言ってくれるのだ。

 

「・・・・・・・・・・・・まぁ、な」

 

言って・・・・・くれる・・・の・・・・だ・・・・・。

 

「気になる、かな?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

絶句。

 

暫し呆けて、何も考えられずに、ただ呆けていた。
そうして1秒1秒過ぎていく毎に気付いていく。

今、この、状況は、とんでもない、ことでは、ないのか?

数学で使うものより難しそうな方程式で答えを解けば、俺の答えは相変らず情けない言葉だった。

「ど、どどどどどうして・・・っ?」
「どうしてって、・・・・・・別にいいだろ」

頬を染めて、視線を外したカガリに、世界の果ての絶望を見た。


期待はやはり夢で終わり、それどころか最悪の結果だ。
まだ頬を染めている彼女。なんだか意味深に答えを返したその姿に、俺は愕然としてしまう。
まるで好きな人の言動が気になって仕方ない、そんな雰囲気のような気がしたから・・・。
まさか、そんなことあるはずない、あるわけがないと、先ほど以上に自分を落ちつかせようと心の中で何度も深呼吸する。

そうしたら、こんな時に限ってキラの言葉を思い出してしまった。

 

「そうだね、今の君なら心変わりもすると思うよ」

 

よりにもよって、

こんな時に、

思いだしたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おまえのレベルなんて、そんなもんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 


なぜだか勝ち誇ったような相手の顔、ゲームで言うなら悪の根源、ラストボス。
俺の中に悔しさが渦巻いていく。
悔しい悔しい悔しい・・・・・・!
ラストボスに捕らわれた物語のヒロインは、抗うこともできずに捕まえられて助けてほしいと叫んでいる。
悪の罠にはまってしまったのだ。
そのヒロインがカガリの姿とだぶっていく。
だから、深く考えることもなく、俺の口からは先ほども宣言した言葉がつい、ぽろりと出てしまった。


「俺!次期会長立候補したから・・・っ!!」


カガリのために、それだけのために!と意気込みをこめて伝えると、カガリが目をぱちぱちと瞬かせる。
これは、今ここに居ないラストボスにむかっての宣戦布告だ。
負けられない戦いの始まりなのだ・・・!

そして、捕らわれの俺の姫君であるカガリは数秒間黙り込んでいたが、思い出したかのように言った。

「そっか・・・・頑張れ!」
「え?」

あまりにもあっけなくあっさりとした返答に、俺の戦いの決意が若干揺らいでしまう。
嬉しいはずなのにどこか釈然としないのは、もっと別の言葉を期待していたせいだろうか。
そう、どうせなら「どうして?アスラン?まさか、私のために?」と言ってくれれば、すかさず俺は
「もちろん、カガリ以外の理由なんてあるわけないだろう?」だったのだ。
そんな女の子が喜んでくれそうなショートストーリーは、やっぱりカガリには一筋縄ではいかないようで・・・・・・
そして俺はそういうところも大好きなのだから、やはりこれはしょうがない。惚れた弱みだ。

「でも、生徒会入ったら忙しくなるなぁ」

ぐるぐると頭の中でそんなことを考えていたら、少しだけ寂しそうにカガリは言ってくれた。
俯きがちに睫を伏せて言った彼女は何処となく色っぽく、
それにドキドキして何よりその言葉に嬉しくなって、俺は思っていたことをまた素直に口にする。

「あ・・・・・・カガリが嫌なら・・・やめるけど?」

きっと、その言葉を喜んでくれると思った。
だから言ったのだ。
俺がどれほどカガリのことだけを考えて、カガリだけを見てきたかっていうのをわかってもらえると思ったから。

これもショートストーリーの分岐点。
選択肢は完璧。

 

・・・のはずなのに、俺の思いと自信とは正反対にカガリから笑顔が消えた。

 

「おまえ・・・・・・それ冗談だよな」
「え・・・・・?」
「おまえのそういうとこ、好きじゃない」

いつもの元気な明るい声とは正反対の、静かな声。その声で眉を吊り上げて彼女は言った。
その瞳が怒っていると長い付き合いでわかる。
照れ屋な彼女はいつも小さなことで可愛く怒るのだが、今は違う。
本当に自分に対して怒りを向けているのだ。

わけがわからない。

カガリが喜んでくれると思って言った言葉のどこが、彼女は気に入らなかったというのだろう。
「・・・・・・・・ど、ど、どうして?」
やっとのことで口にした言葉は
言っている自分でもまたしても情けないだけだとわかったが、今はこれで精一杯だ。
けれどカガリがさらに返した言葉は、精一杯だった俺にとてつもない衝撃を与える。

「自分で考えろ!バカっ!」

持っていたクリアファイルで頭を叩かれた。
プリントを数枚挟んだだけであろう薄っぺらいファイルが痛いはずもなく、ぺこっとまぬけな音が俺の頭の上で鳴る。
そんなものは痛くはない。痛くはないのだ。
けれど、胸を襲うこの痛みは、今まで感じたことのないほどに苦いもの。

眉を吊り上げたまま、走りさるように階段を駆け上がっていくカガリに声をかけることもできなかった。

 

 


駅前デートどころか仲直りさえ叶えることのできなかった俺は、
何をどうこう考えても、わけのわからない胸の痛みとともに今朝のようにその場に立ちすくんで言葉を失う。

もはや、姫君は捕らわれ一筋縄ではいかない、なんて言葉だけでは理解不能。

 

俺の頭の中では、GAMEOVERの文字が流れ、ラストボスが高笑いを始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

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