「俺が生徒会長になってみせます・・・!!!」

高らかに宣言したやつの言葉に、今、俺は腹を抱えて笑っている。

 

 

 

 

 

  アスラン 職業・片想い学生 Lv 1

 

 

 

 

 

 


5分ほど前の事だ。


今日は文化祭の催しや展示を何にするかを決定しなくてはいけない日で、
各クラスごとに代表者が生徒会室へとやってくる。
俺は副会長のダコスタくんとともに生徒会室でクラスの催し事の書類の束をまとめていた。

「あとは2年C組だけですね」
2年生のダコスタくんが1年生の書類をまとめたところで言った。
俺は彼が淹れてくれていたお茶をすすりながら、2年の書類を一枚一枚眺める。
A、B、D、E、F、G組が揃っているというのに、その中で唯一、C組の書類はやはりない。

そんな中、代表者がやってくるということで俺は「ヤツ」がやってくることを期待していたら、
見事、俺の希望どんぴしゃでやってきたのは、2年C組代表アスラン・ザラ。

「・・・・・・・失礼しますっ」

機嫌の悪さを隠そうともせず、生徒会室の扉を勢いよく開けて勢いよく閉める。
相当昨日の出来事を怒っているらしい。・・・・・・怖くはないが。
むくれたような表情は、いつもの優等生ザラなんかじゃなくただのガキだ。
それが俺の笑いのツボを余計に刺激してくれることにも気付かない、本当のガキだ。

・・・・・・・しかし、俺にはむくれていてもダコスタくんには小さく頭を下げるところが憎らしい。

 

「2年C組は喫茶店に決めました」

棒読みのようなセリフで俺の前に担任から許可された証の認印が押された書類を数枚置いた。
その一枚を俺が手にとって書かれてある内容に目を通す。
特に問題のなさそうな文書に、その一枚をまた机に置いて言った。

「ご苦労ご苦労」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「あれ?無視?」

怒りもせずおどけて返してやった俺をさらに無視して、
必要最低限の用事を済ませると、アスランは俺に視線を合わそうともせずに部屋を出て行くのか、教室の扉方向へ。
おいおい。ちょっとそれは失礼なんじゃないか。

「おーい、アスランくーん。世間話でもしていこうよー。ダコスタくんがお茶いれるしー」
「何もありません!以上!」

言いたい事言うだけ言ってすっきりでもしやがったのか、本当に教室を出て行こうとしやがる。
この態度に、優しく寛大な俺も少しばかりキレた。

「つまんねぇ男だな」
「・・・・・・・・・!」

やつの動作がぴたりと止まって、睨みをきかせて振り返る。
どうやら言いたい事ができたらしい。
口下手なこいつの言い訳とも思えるセリフを、俺は待ってやった。

「・・・・・・・あなたは・・・!俺に用があるのならわざわざカガリを通さなくていいでしょう!」

何を言うかと思えば、またカガリちゃん、だ。
こいつの脳内にはその他のことは一切ないのだろうか。
俺とアスランとの間の不穏な空気を察知したのか、ダコスタくんが棚から取り出した湯のみ片手におろおろし始めた。
俺は視線で、大丈夫だからと伝えると、さすが副会長。湯のみを持って隣の給湯室へと行った。
どうやら本当にアスランに茶を淹れるみたいだ。
それに気づかずアスランは自分の怒りのままきゃんきゃんとうるさいくらいに言葉を続ける。

「カガリを使うなんて卑怯です!」
「あ、ヤキモチ?」
「・・・・・・!ち、違います!!」
「違わねぇだろ」
「っ!!」

俺が笑いながら言うと、やつの顔は瞬間で赤くなった。
それが怒りではなく、図星だったからだということは、尋ね返さなくてもはっきりわかる。

「違います・・・っ!俺は・・・カガリが可哀想ってことで・・・!」
「可哀想?誰が?」
「カガリが・・・・っ」
「おまえが、な」

呆れた。
本当に呆れてしまった。
バカなやつだとは思っていたが、ここまでだったとは。
俺が思い出すのは、昨日のデートで笑ってくれていた彼女だ。
多少の緊張もあったが最後には本当の笑顔を見せていてくれて、自意識過剰ではなく俺と居る事を楽しんでくれていた。

可哀想なのは彼女じゃない。
アスラン自分自身なのだ。
こいつはそれを認めてしまうのが悔しいのだろう。
今の不愉快さも、全部俺のせいにして楽になりたいのだろう。

そのくせして告白1つする勇気もない、勝手な臆病者だ。

「悪ぃけど、昨日のデート彼女も楽しんでくれてたぞ」

トドメとも思えるほど辛辣に言ってやると、アスランは言葉をなくしてしまったようだった。
もう何も言い訳が見つからないのだろう。
俺はここぞとばかりに今まで言いたかったことを吐き出していく。

「つまんねぇな、おまえ」
「何がですか・・・っ」
「カガリちゃんカガリちゃんって言ってるわりには自分勝手だ」
「な・・・!」
「視野も広げようとしないで、カガリちゃんだけ傍にいればいいんだ?」

俺の言葉に今度はやつの表情がかわっていき、俺はそれを気にせずに言いたい事を言い続ける。
言葉をぶつけてる途中に彼女の顔を思い出した。
互いに思っているのなんてすぐにわかることなのに、
うまくいかない彼女の恋の全ての元凶はアスランにあるんじゃないかとさえ思ってしまう。
こいつが頼りない男だから彼女の表情が曇っているかと思えば、なぜか俺の口調も荒くなってくる。

「生徒会なんて無理か。自分しか見てない人間が、人のために働くなんて」

なにせ、おまえはカガリちゃんのためにもなっていないのだと、
俺はそう言ってやりたかった。

 

 

「おまえのレベルなんてそんなもんだよ」

 

 

レベル1もいいところ。

未熟なこいつに喝をいれて目覚めさせたい。
そうすれば、彼女が笑うんじゃないかと、そう思っている自分がいる。

 

 

 

 

全ての感情をこめて睨んでやると、アスランは唐突に言う。

「俺が・・・・なります・・・・!生徒会長に・・・っ」

静かな生徒会室内がやつの決意で響く。
それは、望んでいたことのはずなのに、今は思ってもみなかった言葉だった。

「俺が生徒会長になってみせます・・・・ッ!!!!」

これだけデカい声だと隣の給湯室のダコスタくんにも聞こえただろう。
俺自身こいつのいきなりの宣誓に驚いていたが、それでもちゃんと一応、最終確認を。

「・・・二言のある男は最低だぞ」
「わかってます!!」

噛みつくように凄みを持って響くやつの大声も、
赤い顔が次第に張り詰めていた空気を緩ませ俺には笑いのネタにかわる。

「じゃそういうことで!!失礼しましたッッ!!」
「はいはい〜。またな〜!未来の生徒会長!」

捨て台詞のようにまた大きな声で叫んでアスランは生徒会室から出ていった。
俺はそれを軽く手を振りながら見送る。
アスランが生徒会室の扉を大きな音を立てさせながら閉めたところで、俺は脱力してしまった。

 

 

別にハッパかけて勧誘するつもりではなかったのだが、結果的に全て上手くいってしまった。
今までの計画して失敗に終わった努力たちを思えばあっけなかったが、けれどこれでよかったのだ。

 

どうしてもあいつには成長して欲しいと思ったから。

 

まるで親心だが、その理由の根底にある彼女の姿を思い出して俺は苦笑した。
けれどそれも今は忘れるようにして、顔を真っ赤にしながら次期生徒会長宣言をしたやつを思い出して、
今度は思い切り、遠慮することなく笑い出す。

 

 

そうして俺が腹を抱えて笑っていると、湯のみと急須を置いたお盆を持つダコスタくんが給湯室から出てきた。

「あれ?せっかく淹れたのに、未来の生徒会長帰っちゃったんですか?」

冷静に言う彼に俺の笑いはさらに大きくなって、
ダコスタくんが淹れてくれたお茶は、結局アスランのかわりに俺の笑いすぎた喉を潤してくれた。

 

 

 

 

 

 

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