恋に焦がれて

 

 

 

 

 

 

「飲みにいくぞ」

と言った時、瞬時に状況を理解できなかったのか俺の長年の親友は
「は?」
と、目を白黒させてそう答えた。

「だから、飲みに行くぞ、と」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・もしかして・・・」

もう1度同じことを言った俺に、今度は何かを察したようだった。
できれば黙ってついてきてくれれば嬉しかったのだが、さすがにそうはいかなかったみたいだ。

「そんなにカガリと会長のデートがショックなの?」

ずばりと、心の準備なしに核心を突かれる。
1番聞きたくないことを、1番聞いてほしい相手に聞かれてしまった。

「・・・・・・・・・・・なんで知ってる・・・キラが・・・」
「あっという間に噂が流れたよ?二人のデートのこと」

悪びれる様子もなく平然と言ってのける、彼女の弟のキラ。
俺との親友歴も随分と長いのに、キラはいつだってカガリ第1主義だ。
俺とカガリの立場が逆だったら、カガリを慰め俺にありったけの怒りをぶつけることだろう。


「別に君とカガリは恋人同士じゃないでしょ」

今度はガツンと、クリティカルヒット。
この幼馴染みは付き合いが長いせいもあってか、遠慮無しに俺の傷をえぐってくれる。

「そんな君がカガリの行動にケチつける権利なんてないと思うよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

えぐってくれた上に、ご丁寧に傷口に塩まですりこんでくれた。
大人しそうな顔をしているが、かなりの毒舌の持ち主だ。

「でも付き合ってあげる。だから当然アスランのおごりだよね?」

そして抜け目のないちゃっかりした性格。
打ちひしがれる俺ににっこりと笑いかけながらも、なぜだかどこか威圧的だ。
これは言う事を聞いてやらないといけない。
カガリへの、何でも言う事を聞いてあげたいと思う気持ちと、
似ているようで全然違う気持ちに俺はため息をついた。

 

彼の要領のよさを少しでもカガリがもらっていたら、
カガリだって生徒会長とデートすることなんてなかったのかもしれない。

そうだ。うまく言いくるめられたのだ。

 

何だかまた沈んでしまいそうになる俺の耳に、キラの遠慮のない声が聞こえる。

「僕、2丁目の喫茶店行きたいな〜。あそこの特大パフェが食べたい!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

2丁目の喫茶店と言えば、値段が高いことで有名なところ。
あそこの特大パフェは美味しいとは噂には聞いているが、小遣い前の俺の財布にそんな余裕もあるはずもなく、
もちろん俺が小遣い前だということを知っていてキラはそんなことを言ってくる。

「・・・・・・・・・・・わかった。ついてこい」
「やった!!」

無邪気に騒ぐところは彼女にもそっくりだが、今日はそれが妙に憎たらしい。
俺は迷うことなく、キラをある場所へと連れていくことにした。

「1度食べたかったんだよね〜!」
全身で飛び跳ねるように、特大パフェへの期待をそう語ったキラを連れていった場所。

そこは・・・・・

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・アスラン・・・・ここって・・・・」
「2丁目の公園だ」

辿りついた場所を俺が紹介すれば、キラはがっくりと肩を落とした。
この公園の横道を通りぬければ、例の喫茶店がある。
唇をとがらせて不満を訴えそうなキラを無視して、さっさと公園に入っていった。
振り向いて様子を見れば、彼の顔はいかにも不平不満を表していて憎たらしさを倍増させている。

「喫茶店・・・・・」
「小遣い前の人間に我侭言うな」
「アスランお金けっこう貯めてるでしょ〜!」
「我慢しろ」
「えぇぇぇ〜!」

情けない声は聞こえないふりをし、俺は公園の片隅にあるベンチに腰掛ける。
キラが、諦めたかのように俺に続いた。
隣に座ったのを確認すると、俺はを鞄からジュースを取り出して1缶渡す。

「ほら」
「何これ・・・」
「リンゴジュース。まだまだあるぞ」
「・・・・・・・・・・さっき言ってた飲むってジュースのことだったの?」
「当たり前だろう。未成年が制服で堂々と酒が飲めるか」
「・・・・・・・・・・・・・・」

不平不満顔はさらに倍増し、憎たらしささえもプラスされる。

「なんで僕と君が夕焼け空をバックに公園でジュース飲むんだろう・・・」

ぶつくさ言いながらも、手渡されたジュースを開けて飲み始めた。
彼はこういう男だ。
結局なんだかんだ言いながらもちゃんと俺に付き合ってくれて、臨機応変に叱咤激励してくれる。

そういうところは、言って恥ずかしいのだが、彼が本当に自分の親友なのだと強く思う。

 

 


冬が近づけば近づくほど夕暮れ時は早くなり、
普段は子供達の声で賑やかなはずの公園も、今は静まり返っている。

俺が自分用のジュースのプルタブをあけた時、キラがしみじみと言った。

「そういや、この公園でよく3人で遊んだよね〜」
「あぁ・・・・」

なんて懐かしい想い出だろうか。
まだキラがカガリと同じ家に住んでいた時、幼馴染みの俺とキラとカガリは、よく3人でいろんなところに遊びに行った。

特にこの公園は、年を重ねる毎に来る事は少なくなったが、昔は3人の秘密基地のような場所だった。

 

「おまえ達は門限ぎりぎりまで遊んでたよな。俺がずっとそれに付き合って・・・」

 

思い出す。

まだ男女の境目も区別もないようなあの頃。
それでも自分は男の子っぽいカガリの可愛さを知っていて、その頃から大好きだった。

「あの頃からカガリは可愛かった・・・」
「・・・・・・・・・・・・ロリコン・・・」
「あの頃は俺も子供だったんだ!」

ぐいっと、缶の中に残っていたオレンジジュースを飲み干した。
差し迫るような夕闇が虚しさを助長する。

「・・・・・・・・虚しい・・・」
「それは僕のセリフ」

優しくない親友の言葉に、俺はもう一本の缶のプルタブを勢いよく開けた。

「ちょ・・・アスラン、まだ飲むの?」
「飲まなきゃやってられん」
「・・・・・・・・ジュースで言うセリフじゃないでしょ・・・」

今日の親友はどこまでも手厳しい。

 

「カガリィ・・・・・」

 

夕闇と、静寂と、虚しさと男二人。
愛する彼女の名前を口にすることが、これほどまでに寂しいことだと感じたのは初めてだ。

 

 

今ごろ会長とデートをしている彼女。
どこに行ってるんだろうか・・・。俺とのデートよりも笑っていたらどうしよう・・・。
何かプレゼントされてたら・・・!指輪とか・・・!!
俺だってまだ渡してないものだぞ・・・!?

 

手を繋いでいたら・・・・

腕を組んでいたら・・・・

キ、キスなんて絶対絶対絶対大丈夫だとは思うけど・・・

 

カガリが無理やり・・・・っ

「!!お、お、お!!!襲われたら・・・!!」
「はぁ!?」

焦る俺とは正反対の素っ頓狂な声。
慌て始めた俺に、キラの一喝が飛んでくる。

「会長がそんな人なわけないでしょ!」
「そ、そ、それはそうだが・・・・っ」

考えてみたらそうなのだ。悔しいけれどそんな人ではない。
だからこそ俺を襲う焦りはうまく言葉にできない。

「・・・・・・・カガリが心変わりしたら・・・・」
「そうだね、今の君なら心変わりもすると思うよ」

情け容赦ない親友。

 

 

 

けれど、その通りだと思った。

 

ずっとカガリを大切にしてきた。誰よりも何よりも大切にしてきた。
けれど、本当は大切にしすぎたのはカガリ自身じゃなくて、自分の気持ちだったのかもしれない。

 


キラの言葉に、情けなさを自覚した俺は、
自分の中で思い描かれた苦い想いをかき消すかのように、甘いジュースをまた口にした。

 

 

 

 

 

恋に焦がれて・・・etc...

 

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