恋にとろけて

 

 

 

 

 

 

 

「すみません!少し待たせちゃいました・・・!」
「いや、大丈夫」
短めの髪を揺らして待ち合わせ場所に来てくれた彼女。
校門前での待ち合わせなので、他の生徒たちが興味津々といった感じでこちらを覗き見している。

「さて・・・・行きますか!」
「はい!」

元気よく答えてくれのに、どこからどう見ても俺から離れて歩き始める。
まだ警戒しているのだろうか。それとも他の人間の目を気にしているのか。
距離があるのは一目瞭然だ。
こんな光景、どこかで見た事あるような気がしたら、今日の歴史の教科書にのってた
女性は殿方の3歩後ろを歩く図と全く同じだった。

「・・・・・・・・・・・カガリちゃん」
「はい!」
「・・・・・・・・・もっと近づかない?」
「はい!?」

目をまんまるくして素っ頓狂な声をあげて、固まる彼女。

うーん・・・・。

なんだかもっと警戒されてしまったかもしれない。
おいでおいでをしてあげると、そろそろと近づいてくる。
それも、隣・・・・の一歩後ろらへんでぴたりと止まったけれど。

これが限界、かな。

 

気にしないことにして、別の話題をふってみた。
ずっと気になってたことだ。

「聞きたかったんだけどさ」
「な、なんですか?」
「アスランの彼女なの?」
「あ!えぇ!?・・・いえ・・・や・・・そ、それはその・・・・っ」

真っ赤になってわたわたと慌てはじめる彼女。
この反応は、間違いなく両思いだ。
アスランの片想いの可能性のほうが強いような気もしていたが、
どうやらストーカー行為は訴えられることもなさそうで俺は安心した。

こんなことを考えていたら、覚悟したかのようにカガリちゃんは声を振り絞って言った。

 

 

「彼女じゃ・・・・ないです・・・・」

 

 

耳と尻尾がついていたら垂れ下がりそうなほどのしょげ方だ。
なんだか可哀想になってきて、しょげたカガリちゃんの頭を撫でてあげた。
びっくりしたのか、彼女は勢いよく顔をあげて俺の顔を凝視する。
そんな彼女に笑いかけてあげると、安心したのか彼女も微笑み返す。

 

この話題も、ここでやめておいたほうがよさそうだ。
しかしあのバカは、何をやっているのか。
女の子を悲しませることしかできないなんて、男としてどうなんだ。

 

「あ、駅前にさ、アイスクリーム屋できたんだけど行ってみる?」
「え?あ・・・それは・・・・」

話題転換のため、駅前のアイスクリーム屋さんを持ち出してみた。
女の子はみんな甘いものが好きだと思ったから喜んでくれると思ったのに、
彼女の返事は歯切れの悪いもので、視線を泳がせてこれまた言葉を濁している。

「甘いもの嫌いだった?」
「・・・・・・・いや・・・そういうわけではないんですが・・・」
「そうか。・・・じゃ、そこにはまたの機会にってことで」
「はい」

嫌いだったのかもしれない。
俺としたことが、さっきから話題選択をミスしてばかりだ。
アイスはきっぱり諦めることにしたが、立ち話も何なのでとりあえず駅前に向かうことにした。
今度はカガリちゃんも俺の真横にぴたりとくっついて歩いてくれる。

その歩幅に合わせて歩き始めた。

 

 

 

「アスランはさ、なんで生徒会長になるのがイヤなんだろう」
「え?」
「俺が誘っても断ってばっかり。あいつ部活動も何もしてないだろう?」
「・・・・目立ちたくないから、って言ってましたけど・・・」
「目立ちたくないねぇ・・・」

あいつらしい、情けないどうでもいい理由に呆れてしまう。
目立ちたくないだなんて、折角親御さんという神様からもらった綺麗な顔を、生かせる時に生かせないでどうする。

「学園生活も永遠に続くわけじゃないし、誰かのためにそれを使ってみるのもよくないと思わない?」
「え?」
「けっこう楽しいんだって、会長ってもんも」
「・・・・そうだと思いました」
「だろ?」
「はい。だってハイネ会長が楽しそうだし・・・!」

お、よくわかってるね、この子は!

実際、生徒会の仕事は実に楽しいものだ。
もちろん生徒会なんてかっこいい呼び名の裏にあるのは「ただの雑用係」ってもんだが、
それでも先代の生徒会長から続いているお祭り騒ぎなあの雰囲気は、よその学校では真似なんてできやしない。
それにプラスされて、なぜだか生徒会長と言う肩書きは女の子ウケがよろしく、
もともと端整な顔で人気者だった俺の人気はさらに拍車がかかってくれた。

騒がれて、イヤなヤツなんていない。

俺も例にもれずそれが快感だったわけだが、あの男は違うというのか。
やつの気持ちがわからない。


「一体どうやったらあいつを落とせるのかねぇ〜」
「それを私に言っていいんですか?」
「ん?」

つい、ぽつりと出てしまった言葉に、カガリちゃんは悪戯ッ子のような笑みを浮かべて尋ね返す。

「私、アスランの味方かもしれませんよ?」

笑いながら彼女は俺に言う。
だから俺も負けないくらいに悪戯する子供のような笑顔で言ってあげた。

「カガリちゃんは、アスランが好きだからアスランの味方なんだ?」
「!!」

ぼっ、と、音がしたかもしれない。
彼女が一瞬で真っ赤になった。
なんてわかりやすい子だ。こういう子はとても可愛いし、見ていて飽きない。
先ほどまで笑っていたカガリちゃんのかわりに俺が笑い出すと、
頬を膨らませて俺の横を通りすぎ、俺を置いて早足で前に歩き出した。

「さ、さ、さ、ささぁ!先に行きますよ!!」
「あ、ちょ・・・!ごめん!」

 

彼女の後を追いかける俺は、ほんの少しだけやつの気持ちを理解したかもしれない。

笑いは止まることはなかったけれど。

 

 

 

 

 

 

カガリちゃんの歩幅に合わせながら、楽しく会話をしていた。
授業のこと、好きな科目・苦手な科目、お気に入りの先生だとか・・・・
ちなみに俺のお気に入りはラミアス先生だといったら、思っていた通りだと笑われた。
会話選択ミスもなくなり、いつしか二人の間のぎこちなさもなくなっていた。

駅前に近づけば近づくほど、この時間は色々な店の電光が眩しく輝いている。

 

 

とりあえず・・・・と目的地に定めた駅に着いたその時、彼女の足が止まっていることに気付いた。
視線の先には・・・・ゲームセンターだ。

「入ってみる?」
「いいんですか!」

そりゃもちろん。
それだけじっとあの場所を見てたに気付いていながら、可愛い女の子の気持ちを無視するようでは男が廃る。
俺とカガリちゃんは、賑やかなゲームセンターの中へ入っていった。

 

 

 

 


「あ、これ欲しい!」
「なに?」

カガリちゃんが指を差したのはUFOキャッチャー。
お世辞にも可愛いとは言えない、まぬけそうなキャラクターがガラスの向こうからこちらを睨んでいるような気がする。
じっとその中にあるぬいぐるみを見て、彼女は自分の鞄をごそごそと探り始めた。
「よぉし・・・!じゃ、500円で勝負だ!」
そう言うと、鞄から取り出した財布から500円玉を取り出して意気揚揚と投入口へとそのコインを入れた。
軽快な音楽が流れると、カガリちゃんはほんのわずかに前かがみになって操作ボタンに集中する。
「いきなり500?」
「こっちのほうがお得だし!・・・でもホントはこれ、ニガテなんですよ〜」

いきなり操作を誤ったらしく、狙ってるらしきぬいぐるみからはわずかに離れた位置でアームは降りていく。
本当に苦手みたいだ。
本人は至って真剣な表情の上、角度をかえて狙いを定めているのに、狙い所はかなりずれている。
景品落下口にかなり近いネズミのぬいぐるみを狙ったのに、無理やり引っ張りあげようとしているのだ。
この場合、落とすようにアームを使ったほうが有効的だ。

「あぁ!もう!おしい!」

それほど惜しくないよと言うほどバカな男じゃない。
・・・・・あいつなら言うだろうか?

いや、言う前に全財産使ってでも彼女のためにとってあげるんだろう・・・。
惚れた弱みとやらは恐ろしいもんだ。

 

そんなやつの想い人は、ボタンに軽く可愛らしくやつあたりをして2度目の挑戦中。
右移動のボタンを押したところで、つい聞いてしまった。

 

 

 

 

 

「アスランのどこが好き?」

 

 

 

 

 

カガリちゃんの動きがボタンを押したままの格好でぴたりと止まる。

「あ、カガリちゃん!前!」
「・・・・・・え?・・・あ、あぁぁ!!!」

動かしていたアームは1番右端まですすんでいて、これ以上は動けないと変な音を鳴らして警告している。
俺の声で今の状況をやっと理解して、彼女は慌ててもう1つのボタンを押し始めた。
もちろん右端まで行ってしまったアームが今度は縦に動こうと、
いい位置を定めることもできずに大失敗だ。

「あ〜ぁ・・・・・」

残念そうにしょげる彼女を見て、まずいタイミングで聞いてしまったと後悔した。
今日の俺はミスしてばかりだ。
さっきも真剣な表情の彼女に、いきなり一体何を聞いたというのだろうか。

けれど興味はつきない。
純粋に、知りたいと思ったのだ。彼女の事を。

 

 

「・・・・・・・・告白しないの?」

 

 

操作ボタンの近くの3つのランプが、残り1つになる。

 

 

「・・・・・・・・・・できないんです」

 

 

か細い声が聞こえてきた。
彼女の瞳は、1つのぬいぐるみに集中してて、こっちを向いてはくれないけれど
やはり、その声は真剣だ。

 

「・・・・・・・らしくないけど、この関係を崩すのが怖いんだと思う・・・」

 

ボタンを押したが、また彼女が定めた位置は的外れ。
指摘するのが遅れて、アームはそのまま下がっていった。

「ほんっと・・・らしくないなぁ」

アームはネズミのぬいぐるみの尻尾をかすめる。
けれど持ち上げるほどの力はなく、
弱々しくすり抜けて少しだけ浮きあがったまぬけ顔のネズミは、またぬいぐるみの山の中に落ちた。

「あーあ・・・・やっぱり失敗しちゃったか〜」

 

諦めたのだろうか。
財布をもう1度取り出す気配はない。

ガラスの向こう側のぬいぐるみたちに目をやった。
彼女が取ろうとしていたネズミが、なんだかあのバカに思えてくる。
必死な彼女のことになんにも気付かないようにのほほんとした表情のぬいぐるみを見て、なぜだか頭にきた。

「俺が獲ってやるよ」
「え?」

驚く彼女をよそに、自分の財布から200円取り出すとコイン投入口へ押しこむ。
軽快な音楽がまた流れ始めた。

「あのネズミだろ?これならとれる」

別にUFOキャッチャーはそれほど得意分野ではなかった。
むしろゲームセンターといえば、身体を動かすゲームのほうがずっと得意で、

けれど、きっとうまくいくと変な自信があった。

 

アームを使って、引っ張り上げるよりもそれを使って押しつけるようにする。
すると、バランスを崩したネズミは見事に落下して隣でカガリちゃんの感嘆の声が聞こえた。

 

 

 

 

「UFOキャッチャーの極意!引っ張るよりも押しまくれ!」

景品取りだし口から出てきたマヌケ面を取り上げると、それを彼女に手渡した。

「恋愛もおんなじかもな」

マヌケネズミを受け取りながら、俺の言ったセリフに目を見開いた彼女。

「うまくいくといいな」
「・・・・・・・はい!」

 

なんのことか、彼女がちゃんとわかっているのかは、俺にはわからない。
けれど、きっと気づき始めている。あとは二人次第、だ。

 

我ながら、自分は素敵な男だと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日はありがとうございました!」
「いやいや。楽しかったよ」
「アスランの秘密、あんまり話せなくてごめんなさい」
「あら?ばれてた?」
「バレバレ!」

二人、同時に吹き出した。
そりゃそうか。
俺がカガリちゃんにデートを申しこんだ理由がアスランだなんて、誰もがわかっていたかもしれない。
ほとんど無理やり連れ出したようなものだったけれど、彼女はイヤな顔1つせず付き合ってくれた。
だから理由と目的があのバカだったとしても、今日は本当に楽しかった。
そう、あのバカを忘れるくらいに楽しかった。

「それじゃ、帰りますね」
「ほんとに家まで送らなくていいの?暗いし危ないから・・・」
「いいです!走って帰りますし!」
「でも・・・」
「ほんとに平気です!それじゃ・・・!」

軽く会釈をした後、本当に走り出した彼女のうしろ姿を見送った。

ふと、彼女がくるりと振り向く。
俺に向かって、叫んだ。

 

「会長!アスラン!生徒会に入るといいですね!」

 

元気よくそう言った彼女に俺は答えを返した。

 

「おう!俺は諦めの悪い男だから!」

 

そんな俺の言葉に笑った彼女は、本当に魅力的だと思う。

 

 


あのバカは女の子を見る目はあるけれど、
あのバカにこの女の子はもったいないと思ってしまった、そんな最高のデートだった。


 

 

 

 

 

 

恋にとろけて・・・etc...

 

 

 

 

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