廊下は走らないでね。
「カガリ・ユラ・アスハがハイネ会長に告白されたらしいぞ・・・!」
誰の声かは知らないが、職員室を出てすぐ俺の耳に飛び込んできた台詞はそれはそれは衝撃的なものだった。
6限目の授業後、担任のフラガ先生に呼び出された俺は、文化祭のお知らせというプリントを山のように手渡された。
「大事なものだからな〜。落とすなよ。みんなに配ってやってくれ」
と、言いながら遠慮なく俺の両手にどんどん積み上げられていくプリントたち。
紙とは言え、これだけ重ねられるとやはり重い。
これはゆっくり歩かなければ落としてしまいそうだ。
体勢を整えて持ちやすくすると、扉の近くにいたラミアス先生が職員室の扉を開けてくれた。
両手がふさがっているので自分じゃ開けられなかったからだ。
お辞儀することはできそうにないので、きちんと言葉でお礼を述べて一歩前に進んだ時、
先ほどの、会話が聞こえてきたのだ。
カガリが、ハイネ先輩に、告白、された。
真っ青になっただろう俺は、ついさっきゆっくり歩こうと決めたにも関わらず、自分のクラスへと走り出していた。
廊下は走らないでね。
という張り紙なんて無視だ、無視。
2−C前に到着した時には、手の上の重みと、急に走って急に止まったことから心臓がドクドク動いていて呼吸が辛かった。
それとも、これは走ったからでの辛さではなく、あの言葉に心痛めているのだろうか。
・・・・・・・・・・しかし、考えてみれば、何てことはない。
カガリが、俺以外と付き合うはずはないのだから・・・・・・・・・多分。
どうせまたただの噂なんだろう。
そうだ、ただの噂だ。
1人で慌ててパニックになって、かっこ悪いじゃないか。
うん。そうだ。俺がカガリ一筋と同じように、カガリだって俺一筋なんだ・・・・・・・・・多分。
深呼吸して、自分を落ちつかせてみた。
冷静を装いながら近くにいた生徒に、扉をあけてほしいと頼むと
その生徒は俺のふさがった両手を見て納得したのか2−Cの扉をあけてくれた。
それにまた礼を言うと、教室内へ入っていく。そして大好きな彼女の姿を探す。
見つけた大好きな彼女、カガリの第一声。
「ごめん。アスラン。今から会長とデートすることになった!」
「えええぇぇぇぇぇえええええ!!??」
両手に抱え込むようにして持っていたプリントの山は、一斉に床に散らばった。
「うわ。アスラン、何やってるんだよ!」
慌てて散らばったプリントを拾おうとするカガリの手を止めて引っ張り、そのままこちらに身体を向かせる。
「そんなものはどうでもいい!」
「えぇ!?」
そう、たとえ大事なプリントだと言われようと、俺にとってカガリ以上に大事なものなんてないのだ。
今はとにかく、カガリが言った言葉の真意を確かめたい。確かめなくてはいけない!
「なぜだ!?なぜハイネ先輩とデートするんだ!」
「だ、だって・・・!そういう話になっちゃったんだよ・・・!」
「駄目だ!」
「そんなこと言ったって、もう約束しちゃったんだ・・・!」
眩暈がした。
カガリは俺を捨てるというのか・・・!
今までちゃんと告白してこなかった俺が悪かったのか・・・!
やっぱり昨日のあの時、男らしく好きだといってキスすればよかったのだろうか・・・!
「ご、ごめん!アスラン!また今度な!」
俺の手を振り払って走り去るカガリの後ろ姿を追うこともできず、
プリントが散らばる床へ俺はなだれこんだ。
「・・・・・・・・・・カガリ・・・・どうして・・・・っ」
大声をあげて泣き出したい。
神様は意地悪だ。
十数年、走りだした想いは止まることなく、
カガリだけを見て、カガリだけを大切にして、カガリだけを愛してきたというのに・・・・!
一体何がいけなかったのだろうか。俺の何が気に入らないというのか・・・!
「・・・誠実でマジメよりも、明るく人付き合いがいいやつがタイプだったのか・・・!?
黒髪よりも金髪が好みだったのか・・・・っ!?」
どれだけ問いかけようとも、この場から居なくなったカガリに、それを尋ねることはもうできない。
そんな俺を見て教室内が笑いでざわついてることにも気付かずに頭を抱えた俺に、
クラスメイトで、カガリとも仲の良いフレイから容赦ない台詞が飛んできた。
「・・・・・・・・・・・・・・あんた、プリント拾いなさいよ」
秋の風も、クラスメイトも、俺には冷たく厳しかった。
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