「以上ッッ!みんなの生徒会長、ハイネ・ヴェステンフルスでしたぁ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一喜一憂:情勢の変化に伴って喜んだり心配したりすること。
例「ストーカー男は、好きな女の子の姿で一喜一憂した。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

授業終了のチャイムの音が耳に入った時、俺は迷うことなく放送室へ向かった。
今朝、あつーいラブレターを送ってやった人間が、素直にそれを受けとめるだなんて、
賢い俺は微塵も思っちゃあいない。
どうせトンズラして何もなかったことにするつもりなんだろう。

ならば、そんな愚かな行動を後悔させてやるまでだ。

 

 

 

今朝の事を思い出す。
いつもより少し早めの登校。

1ヶ月後の文化祭に向けてそろそろ各学年が動き出す頃だ。
その前に生徒会としては、どれだけの予算を注ぎ込むか等、考えなければならないことはたくさんある。
今日はそのための早起きだ。

 

朝が少々苦手なこともあって、決して機嫌がいいわけではないのだが、
いつものように鼻歌を歌いながら爽やかな登校。
文化祭。それは俺の生徒会長としての最後の仕事になるのだ。
絶対に成功させたい。

 

 

・・・・・・・・・・実際にはもう一つだけ俺の仕事は残っているのだが。

後継者選び、だ。

 

 

先代生徒会長は俺の兄貴。
それより以前の生徒会長は誰だか忘れたが、兄貴が会長を努めていた時は、
この学園の活性化を促す素晴らしい会長だったのは間違い無い。
俺も兄貴の跡を継いで1年生の後期から生徒会に入った。

ミゲル&ハイネと言えば、この学園どころか、この地域にある学校全ての憧れの的だ。
芸能界からお誘いが来たとか何とかって噂まで流れるほどだ。・・・実はけっこう本当。

 

 

そんな俺達が、いつまでもこの学園を盛り上げていくことができればいいのだが、
学園生活は3年間とタイムリミットが決まっている。

 

 

兄貴が卒業したあとは、俺が満場一致で生徒会長になったが、
なんだか半身を失ったようで、正直俺のやる気も失せていた。
しかし表面上はそんなところを見せるわけにもいかない。

誰にも知られず俺の平凡な生活がスタートした。
それは、変わらない平和な生活だったが、退屈する日々でもある。

 

 

それが今はどうだ。
毎日が楽しい。

 

俺は今、楽しいのだ。

 

 

 

 

 

 


やつの下駄箱を開けると、女子生徒からの愛が手紙となって埋め尽くされている。
何通かは足元に落ちてきた。

「おーおー!やるねぇ!」

口笛を鳴らしてやつのモテぶりを称えてやる。
しかしこんな無愛想男のどこがいいんだかわからない。
それともやつの「無愛想ではない表情」を見て好きにでもなったのだろうか。
それなら、余計にこいつは止めといたほうがいいと思うぞ。

 

落ちた手紙を拾うと、下駄箱に丁寧に突っ込んだ。
そして自分の鞄からノートを取り出して、一枚破る。

「た、い、だ、ん、さ、れ、た、し・・・」

黒のボールペンで見事な達筆を披露する俺。
しかし、この手紙を出したであろう女の子たちのような華やかさは文面に感じられない。
そこで赤ペンを取り出す。・・・いや、ピンクかな。
きゅきゅと可愛らしくハートを描きこんでやった。
サービスだ、これは。喜べよ。

 

 

 

 

 

そもそもあいつとの出会いは1年半前の入学式。

当時、新入生代表として壇上に上がったやつに向けられたのは
女子生徒の黄色い声援と男子生徒の羨望の眼差し。
それだけ目立つ存在の人間が、月日を過ぎるほどに目立たなくなっていったのは
とことん地味ーにをポリシーとするやつの生き方のせいだ。

俺は悲しくなった。
折角の溢れる才能を無駄にして生きているだなんて・・・!
でも、俺にとってのやつへの興味はその程度で終わった。

 

それから1年とちょっとが過ぎて、そろそろ俺の卒業後のことも考えなくてはいけなくなった時、
教師陣は口を揃えてこう言った。

 

アスラン・ザラが次期生徒会を担ってくれればなぁ

 

成績優秀、運動神経抜群、眉目秀麗に人望も厚い。
たしかに俺に似ている。

あの無愛想なところは気に食わないが、この際仕方ない。
だから俺はわざわざ2−Cにまで乗り込んでこう言ってやった。

「俺と新しい伝説を作ろうぜ!」
「お断りします」

0.5秒で答えたアスラン・ザラ。
少しくらい悩めよ!!
と突っ込んでもそれは無視された。
ただ周りにいた女子生徒だけが騒いでいて、俺の突撃勧誘は見事にぶちのめされた。

 

俺とアスランの馴れ初めはそんなとこ。

正直、断られた時点で全て終わるはずだった。
別に俺のあとを誰が継いでもいいと思ってたし、こいつじゃなきゃダメだなんてことはない。

 

 

 

そんな俺の考えがあっけなく覆されたのが、この事件の2日後くらい。
生徒会会議を終えて帰途につこうとした時、夕暮れの校内でやつの姿を発見した。
俺の愛の告白を断った無愛想で無表情なやつとして頭の中にインプットされていたが、
その時、俺の目の前に映ったのは、穏やかににこやかに幸せそうに微笑んでいる姿。

 

びっくりした。

 

俺の知ってるこいつは、壇上で女子生徒の黄色い声も涼しげに無視しているようなやつで、
俺の熱いラブコールもさらりと流してしまうようなやつで、
可愛げも何もあったもんじゃない人間だったのだから。

 

 

やつの視線の先には、大会前の陸上部の女子生徒の姿。
俺が居る位置からはあまりよくはわからないのだが、
10人くらいがグラウンドに出していた練習器具の後片付けをしている。
その姿をにこにこと眺めているのだ。

 

・・・・・・・・・・・・・・こいつヘンタイか。

 

俺の中のストイックなこいつの清いイメージは音を立てて崩れていく。

しかし、気付けば、やつの視線は1人の子を追っているのだ。
残念ながらその子がどの子なのか、やっぱりこの位置では確認できなかったが、
やつの表情は、無から一転、くるくると変わっていく。
嬉しそうに笑っているかと思えば、目を見開いて驚いていると思えばまた笑う。

一喜一憂という言葉を表すとしたら、間違いなく今のアスラン・ザラだ。

 

 

何かすごいものを見てしまった。
・・・・・・・面白い。

 

 

というか、おまえそれストーカーだぞ。

 

 

 

 

 


それからというもの、俺の興味の全てはやつに注がれた。
なんというか・・・人間というものはここまで変わるのかと思い知らされた。
それが面白くて、何が何でもこいつを後継者に選びたくなってしまったのだ。

しかし悲しいかな、俺の愛情は空回り。

教師陣の熱い声援に後押しされながら俺はひたすらやつに誘いの言葉をかける。
フラガ先生なんかは、「あいつが生徒会長にならなきゃ、この学園は終わりだなぁ」
なんて笑いながら脅しをかけてくる始末だ。

こうなったら、なんとしてでも勧誘に成功しなくてはならない。

 

 


というわけで、今までも頻繁にアスラン・ザラにはアタックしてきた。
そして今朝も、いつものように俺からラブレターを贈ってやったわけだ。

 

 

 


放送室を出ると、俺はのんびりと生徒会室へ向かった。
やつのほうが先に着いているに違いない。
逃げ出そうとしたバツだ。少しくらい待たせてもいいか。

 

生徒会室に辿りつくまでの間に、女子生徒から声をかけられる。
「がんばってくださいね!」とか
「応援してます!」とか
「会長!こっち向いて!」とか。

 

いかに俺がどれほどモテているのかわかる素晴らしい時間だ。
全ての女の子に笑顔を返しながら、目的の場所へ辿りつく。

 

普段は鍵を閉めていて、生徒会の人間と教師しか入れないようになっているのだが、
今日はこっそりと昼休みの間に鍵を外しておいた。
生徒会顧問にでもばれたら怒られそうだが、別に盗難されて困るもんなんて置いてないし、
この学園にはそんなやつはいない。

 

あぁ、でも、兄貴から譲りうけたいやらしい本は、ばれるとまずいかな。

 

そんなこんなを考えながら生徒会室の扉を開けると、そこにいたのは

「よ!色男!」
「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

アスラン・ザラだ。

ちなみに不機嫌オーラ発しまくり。
生徒会室に置いてある椅子にどかりと座りこんでいて、
俺に近づけば怪我するぜ、なんて吹き出しがついていたら言ってそうなほどの雰囲気だ。

 

「ハイネ先輩・・・俺に何の恨みがあるんでしょうか?」
「恨み?愛だぞ、これは」
「笑えない冗談はやめてください。ここに来るまで、どれだけの人にひやかされたことか・・・」
「おぉ。俺達、公認カップルだなー」
「やめてください」

毅然とした態度で返された。
こういうところがこいつの可愛くないところだ。
どうして憧れの先輩を前にしてこういうことが言えるんだろうか。

 

「俺は生徒会長なんて器じゃありません。それは何度も言ってるでしょう」

 

やつの意見は初めて言葉を交わした時から変わらない。
多分変えるのも難しい。
だがしかし。

「俺がおまえだって言ってんだから、おまえなんだよ!」
「どういう理屈ですか!?」

 

苛立ちが限界なのか、椅子から勢いよく立ちあがって怒鳴り声をあげた。
足りない。こいつカルシウムが足りてないぞ・・・!

 

「とにかく!カガリを待たせてるんで・・・」
「カガリ?」
「!」

 

出てきた女の子の名前らしき3文字に、俺は自然に何気なく反応を返した。
それに今度はこいつがびくりとする。

もしかして・・・ストーカーしていたあの子だろうか。
ほーほー。カガリ、ちゃん。
こいつのウィークポイント見つけちゃったかな〜。

 

「カガリちゃん、カガリちゃんねぇ」
「ちょ!!・・・カガリに変な事吹き込まないでくださいね・・・!それじゃ失礼します!」

 

それだけ言って俺を押しのけるかのようにして部屋を出て行くアスラン・ザラ。
逃げられたことは残念だが、いい情報を手に入れた。

 

これは非情に重要で、なおかつ有効な情報だ。

 

 

 

 

 

やつの居なくなった生徒会室で俺はもう1度呟く。

 

「カガリ、ちゃんねぇ〜」

 

 

 

なんか次期生徒会長勧誘作戦のいい案が増えた気がする。

俺は1人で笑った。

 

 

 

 

 

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