放課後、対談されたし。

 

 

 

 

 

 

 

爽やかな朝。賑わう校舎。


カタンと音を立てて靴箱を開ければ、次の瞬間俺の眼に映るものは手紙の山。
上履きを隠すようにして所狭しと靴箱の中をひしめいているせいで、
開けた瞬間、何通かは足元に落ちてきたほどだ。
以前から手紙をちょくちょくはもらってはいたが、急激に増えたのはここ最近。
理由はわかっている。

ここ1ヶ月、毎朝の光景にため息をついてしまった。

 

足元に落ちた手紙を拾いあげて、用意してきた紙袋に入れる。

この光景を、世の中の男たちはきっと羨ましいと言うだろう。
なぜなら上履きを隠すほどに埋め尽くしていたものは、
いわゆるラブレターと呼ばれるもの。


しかし嬉しいどころか、正直に言えば、好きな子以外からの愛の手紙なんて困るだけなのだ。

 

自分には、もう心に決めた子がいるというのに・・・。
その子と付き合ってるわけでもなんでもないのだが、互いに想い合ってるのは確かだ。
これは自分の自惚れでもなんでもなくて、本当に、想い合ってる。
ただ、今恋人といえる関係ではないだけで・・・

 


そういえば1度これを手にして俺の想い人、カガリに会った時、思いきりヤキモチを焼いてくれた。
何だか嬉しくて馬鹿正直にその気持ちを伝えたら、
「馬鹿!」という可愛い声といっしょに頬にビンタが一発とんできた。

だから2度目は、手紙をくれた子たちに悪いとは思いながらも読まずに捨てたのだが、
それはそれでカガリに無神経だと怒られる。

乙女心は難しい。

 


前に殴られた頬が何だか痛くなる。

今日の手紙の山をどうしようかと考えると胃が痛くなる。

 

 


その手紙の山の中で、たった一つ、異彩を放つものがあった。

 

・・・・・いや、これは異彩と言うべきなのだろうか。

 

 

どこからどう見てもノートを無理やり破っただけのその手紙は、
封筒にも入れられずに紙そのままで下駄箱の中の1番上を占領していた。
嫌な予感がしたから、見ずに捨てようかと思ったけれど、
折りたたまれてさえいないこの手紙の文字は、自分の意思とは裏腹に俺の目に映った。

 

 

 

 


放課後、対談されたし。
生徒会室にて待つ。すぐに来い。

貴方のハイネ・ヴェステンフルスより

 

 

 

 

 

いつから、どこで、どうして、なんで、俺の貴方になったのか。

本日2度目のため息。

 

この人はこういう冗談が好きで、よく俺を精神的に疲れさせてくれる。
ご丁寧にピンクのハートまで文面に飛ばしてくれているその手紙は
可愛らしいというか・・・・おぞましい。

 

 

 

ハイネ・ヴェステンフルス


1学年上の先輩にして現生徒会長。
前生徒会長は彼の実兄でもあったミゲル・アイマン先輩。
家庭の事情で苗字が違うという過去も感じさせないほどに、2人は明るくこの学園の人気者だった。
ミゲル先輩が生徒会長の任期を終えた時、
当時副会長だったハイネ先輩が満場一致でその後を継いだ。

この学園では「ミゲル&ハイネ」の名を知らぬ者はいない。
伝説なのだ。

その伝説の片割れハイネ先輩は、来年の3月に卒業を控えていて今、後継者選びに奮闘中だ。
なぜだかその後継者に、自分が抜擢されたのは1ヶ月ほど前のこと。


もともと教師陣からは、次期生徒会長に立候補するようにと、
耳にタコができるくらいに何度も言われてきたがそれはなんとか上手いこと切りぬけてきた。

 

 

それが

「俺と新しい伝説を作ろうぜ!」

なんて、冗談か本気かもわからない言葉をかけられたものだから、
俺は次期伝説候補となり、慎ましやかに生活していたのが一変、
同学年はもちろんのこと、先輩からも後輩からにも目立つ存在になってしまった。

そうしてこうやって女子生徒から、ありがた迷惑な手紙をたくさんもらうようになる。
どうやら次期伝説が気になるみたいだ。きっとただの好奇心。

 

俺は全ての手紙を紙袋に入れ終わると、
先程見たピンクのハートが飛ぶ手紙の内容は綺麗さっぱり忘れることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはよう!アスラン!」
「カガリ・・・おはよう。朝練どうだった?」
「ん!絶好調!・・・私じゃないけどな」

陸上部の友人の朝練の付き合いのため一足先に学校へ来ていたカガリと対面。
早起きが少し苦手なのに、友人のためにそれを乗り越える優しさは俺の大好きなカガリの一部。
その友人の調子がいいのか、自分のことのように嬉しそうに笑うカガリ。
俺の朝は、起きた瞬間から始まるのではなくて、カガリのこの笑顔を見た瞬間から始まるのだ。

 

 

 

授業中もたまにカガリの眠たそうな様子を見ては、幸せな気持ちになる。
カガリを想いながら、時間が過ぎていく。

それが俺の幸せな毎日。

 

 

 

 

 

 

そして放課後を迎えた。

 

 

 

1日の学園生活の終わりの鐘が聞こえると、生徒たちは途端に元気になる。

俺も、カガリも、例にもれず。
特にカガリは、朝一よりも機嫌がよく元気がいい。

「アスラン!帰り、何か食べよう!」
「いいよ。何がいい?」
「ん〜・・・」

小首を傾げて真剣に悩むカガリ。
何だって付き合おう。どこへだって一緒に行こう。
これで2人はまだ恋人じゃない。少し寂しいがいいんだ。
慌てずゆっくりと、2人の距離で近づいて行けば・・・。

「あ!駅前に新しくできたアイスクリーム屋!」
「あぁ、じゃあそこに行こうか」
「うん!」

 

あぁ・・・・俺が1番幸せだと感じる時。
これから2人きりの時間。
カガリの弟であるキラも、カガリの親友であるラクスも、今日は委員会があったはず。
正真正銘ふたりきり、なのだ。

嬉しそうに笑ってくれるのが嬉しい。もっともっと笑ってほしい。
カガリの笑顔が大好きだ。俺はカガリが大好きだ。

 

 


幸せに浸って2人きりの時間を思うと、胸がいっぱいで・・・・

 

 

その時だった。

 

 

耳障りな機会音が少しだけ教室内に響く。
校内放送のスピーカーがオンになったようだ。
放課後すぐに流れるのは珍しい。

 

嫌な予感がする・・・・・・・・・


 

<あーあー・・・・・・>

 

マイクを通して教室のスピーカーから聞こえてきたのは、どこかで聞いたことのある男の声。

 

<あーあー・・・・うほん!>

 

「あ!生徒会長だ!」

 

カガリが無邪気に言った。
クラスメイトたちも、男女関係なく騒ぎ出す。
この歩く伝説は、本当に人気者だ。

いや、感心してる場合じゃない・・・!

 

「カ、カガリ・・・・、行くぞ・・・ッ!」
「え・・・っ」

 

早いとこここを切り抜けなければ・・・・
嫌な予感が的中するのだけは勘弁だ!
俺はカガリと、2人きりで、放課後デートを楽しむんだ・・・!

 

 

が、俺の切なる思いはあっさり裏切られる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


<2年C組ィアスラン・ザラァァァ!!!!>

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


俺の名が学園内に響き渡った。

 


<俺の愛の告白を断るとはぁ!いい度胸だあぁ!!>

 


クラスメイトの視線が一瞬にしてこちらに集まる。

 


<今すぐ来い!走って来い!何がなんでも来ぉいっ!!>

 


カガリまでこちらを驚きながら見ている。あぁ・・・その顔も可愛いよ・・・。


 

<以上ッッ!みんなの生徒会長、ハイネ・ヴェステンフルスでしたぁ!!>

 

 

ぷつりと機会音が消える。

騒いでいたクラスメイトたちはいつの間にか静かになっていた。
しかし、それも束の間、クラスの女の子達が黄色い声援とともにドっと騒ぎだす。
俺の手と額には冷や汗が流れ、おまけに眩暈がした。
変な噂が流れるのを覚悟しなくては。

 

あぁ、せめてと、可愛い表情で、可愛いヤキモチを見せてほしいと淡い期待をしたら
俺の彼女(予定)はこう言った。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・ご愁傷様」


その後、お腹を抱えて笑ってくれたから、喜ぶべきなのだろうか、これは。

 

 

 

 

 

 

 

BACK
 

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送