「今日は何の日だと思う?」

いきなりアスランが笑顔で尋ねてきた。
アニメの放送日だったぞ、とカガリが言えば、彼は思いきり吹き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

Be  Happy !!

 

 


 

 

 

 

 

「なんだよ!なんで笑うんだよっ」
「ごめんごめん。・・・たしかにあの子たちの好きな番組の日だけど・・・」

子供たちが大好きなアニメだ。
子供を大切にする母親のカガリとしてはかかせない日でもあるだろう。
けれどそれよりも何よりも、彼女の誕生日、なのだ。

誕生日の記念の会見は明日の午後に回してもらっている。
それは、アスランと子供たちが見せた小さくて大きな我侭だ。

彼女のこの様子だと、今は明日の会見のことも忘れてしまっているのだろう。

 

手を差し出したアスラン。
いまだ彼のしようとしてることを理解してないカガリは不思議に思うばかりだ。

「ほら、手をとって」
「あ、うん・・・・」

いきなりのことで、何が何だかわからない。
けれどアスランの言う通り、その手を取ってみた。
引っ張られるかのように、けれど優しく歩かされる。

「どこ行くんだ?」
「いいところ」

曖昧な答えしか返さないアスランに手をとられたまま、同じように歩くカガリ。
けれど、彼が立ち止まったところで目指していた場所がどこなのか知る。
それは、子供部屋だ。

「ちょ、ちょっと待て、アスラン」
「ん?」
「子供部屋は・・・・その・・・・・」
まだ、入っていいという許可が出ていないのだ。
数日前から子供部屋に近づこうとすると息子たちはダメだと騒ぎ立てる。

「いいから。主役がいなきゃ始まらないだろう?」
「主役?」

やっぱりワケがわからない。
けれど、それを尋ね返そうとする前にアスランが子供部屋の扉を開けた。

それと同時に、クラッカーが鳴る。

 

 

「お誕生日おめでとう、お姫様」

「「おめでとぉ!!」」

「・・・・・・・・・え・・・」

 

 

いまだに呆けているカガリのその手をとったまま、アスランは特等席へと案内した。

促されるままにその行動に従ってはいるものの、状況は理解できてはいない。
カガリは、ふかふかしたクッションが敷かれてある特等席のその席に座るとあたりを見まわしてみた。

 

色とりどりの飾り、ワッカのラインが部屋をぐるりと一周していて、いつも賑やかな部屋は、もっと賑やかに感じられる。
目の前のテーブルには、軽い食事をするためかサンドイッチやつまめるものが大きな皿に盛られてあり、
テーブルの真ん中に目を惹くように置かれてあったのが、イチゴののったホールケーキだった。
そしてそのケーキには文字が描かれてある。
チョコレートで描いたのだろうか、茶色の文字でこう描かれてあった。

 

HAPPY BIRTHDAY !

 

その文字を見て、全て思い出した。
今日が何の日かということを。
今ごろ気付いた。
子供たちがそわそわして自分をこの部屋に近づけなかった理由に。

 

 

嫌われたと思うなんて、馬鹿なことだったのだ。

こんなにも、愛されているのに。

 


「おめでとう!ははうえ!」
「おめでとう!!」

子供たちの声が、とても嬉しそうだ。
避けられていると思った子供たちが、にこにこと笑っている。
自分のために微笑んでいるのだ。


 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「カガリ・・・?」


 

子供たちの言葉に返事を返さないアスランが訝しげに思いながらカガリに声をかける。
声をださないカガリが、かわりに流したのは涙だった。

「・・・・・・・・・・・ふ・・・ぅぇえ・・っ」
「えぇ!?な、なんで泣くんだ・・・!?」

突然のカガリの涙にアスランは慌ててしまった。
泣かせたいわけではなかったのに。
そしてそんな思いを持ったのはアスランだけではなかった。

「かあさん!どうしたの!」
「どこかいたいの!?」

下を向いてただ泣く母親の顔を覗きこむように、二人がカガリの傍に寄る。
カガリを心配する言葉を何度も言いながら、カガリの身体を撫でている。
どこか痛いと思っているのかもしれない。

 

「カガリ・・・笑ってほしい。二人とも心配してるぞ?・・・・・ほら」

 

優しく、その涙を拭えば、カガリが真っ赤な目でアスランを見上げる。
子供たちの前だということも忘れて瞼にキスをすれば、はにかんだような笑みを見せた。

 

あぁ、やっぱり、
彼女の笑顔は世界一可愛い。

 


「やっぱり、笑ってるほうがずっと可愛い」
「・・・・・・・ばか」

鼻をすすりながら、彼女は彼女らしい一言を言った。
照れ隠しの、意地っ張り。
アスランが大好きな、彼女の魅力の1つ。

 

頬が赤くなりそうなのを隠すために、テーブルに用意されてあったケーキの上のろうそくに火をつけた。
部屋の灯りはもちろん消して。

「・・・・それじゃ・・・・ハッピーバースデートゥユー♪」
「「ハッピーバースデートゥユー♪」」

 

アスランが歌いだしたら、子供たちも声を重ねていった。
カガリが少し笑っている。
音がずれているのかもしれない。歌は苦手なのだ。子供たちもアスランに似て苦手のようだ。
でもきっとカガリが笑ってくれたのは、馬鹿にした笑いなんかじゃなくて、
部屋に響くその声がとても愛しいからだということを、アスランはわかっていた。

 

「ハッピーバースデートゥーーユーー♪」

 

歌が終わると同時に、カガリが勢い良く息を吹きかける。
見事にろうそくの火は全て消えた。

子供たちがそれを見て拍手をしている。
アスランは部屋の灯りをつけ直すと、同じように拍手をした。

 

「ケーキはさ・・・俺と子供たちで早起きして作ったんだけど・・・」
「つくったの!」
「たべて!」
「う、うん・・・・」

アスランがカガリのためにケーキを切り分ける。
子供たちも笑顔でフォークをカガリに手渡した。

「やっぱり甘すぎるかも・・・」

ケーキをのせた皿をカガリに手渡しながらアスランが不安そうに呟いた。

カガリはその皿を受け取って、ケーキにフォークを入れてみる。
一口分すくって、口の中にいれた。

甘い、クリームの味が口内へ広がってゆく。

見るからにドキドキしてる顔の、3人のその姿を見て、
カガリは以前自分がケーキを作って子供たちに食べさせてあげたことを思い出した。
あの時作ったケーキは甘くて、カガリ自身は美味しくないと感じてしまった。
だからきっと、子供たちも本当はそんなケーキがイヤだったんじゃないかと思ってしまっていた。
けれど、今、わかる。
どんなに美味しい一流パティシェのケーキだろうと、
家族が心を込めて作ってくれたこのケーキの方がずっと美味しい。
甘すぎるクリームも、ちょっとでこぼこのスポンジも、心に染みこむように美味しいのだ。

「すごく美味しいな・・・!」

ケーキ作りの失敗で嫌われたと思ってしまった自分を悔いた。

そんなこと、あるはずがないのだ。

 

また一口食べてみた。
やっぱりすごく美味しくて、また泣いてしまいそうだと、カガリは強くそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

「かあさん、プレゼント!」
「プレゼントです!」

双子がカガリに、赤いリボンでくくってある丸まった白い画用紙を手渡す。

「何かな?」
そう言いながら、カガリはその赤いリボンをほどいてみた。

丸まった画用紙をゆっくり広げてゆくと、カガリの瞳に映るのは、
黄色い、ちぎった折り紙で作られた、自分自身。
そのすぐ隣には、蒼い髪の・・・
「アスランだ・・・・」
「とうさんとかあさんは、ずっと一緒なんだよ!」

そう言った、長男の瞳の色は大好きな彼と同じ色だ。
この色が大好きだった。とても綺麗で優しくて・・・すごく大好きなのだ。

「こっちのね、ちっちゃいのがね、ボクとにいさんだよ」

まんまるいちっちゃい指でさした絵の中の、小さな男の子たちは自分たちだと言う次男。
この子の瞳も碧色なのだ。その上蒼い綺麗な髪まで父親譲りだ。
この髪の色も深く力強い色で、カガリはとても大好きだった。

 

大好きな、彼が贈ってくれたものは、こんなにも健やかに優しく育っていってくれている。

 

それがとても嬉しくて、カガリは手を伸ばした。
幼い子供たちを順に抱きしめようとしたのだ。

「ありがとう・・・ウィリ・・・大好きだ」

ぎゅっと、まずは長男を抱きしめた。

「ありがとう。ライルのことが大好きだぞ。」

次に次男を抱きしめる。

可愛い双子の息子たちに、母親としての精一杯の愛を贈ってみせた。
これから先も、ずっと健やかに育ってほしい。
そう願いをかけながら次男の身体を離した。

 

 

普段ならここで抱擁は終わるのだけれど、

けれど、大好きで仕方のない人がもう1人いるのだ。

今度は立ち上がって、手を伸ばす。

 

「・・・・・・・え!?」

 

アスランが、驚きの声をあげた。

カガリにその声ははっきり聞こえたけれど、その行動を止めるつもりなんてない。
今度は、自分よりも背が高くてその身体が大きいから、
抱きしめるというよりは、抱きつくような形になってしまうのなんて、この際どうでもいいことだ。

 

全身を使って、伝えた。

 

 

大好きと。

 

 

「ありがとう・・・・・アスラン」

 

 

 

感謝しても感謝しても足りない。
こんなにも素敵なものをたくさん贈ってくれた人が、愛しくてしょうがない。

 

 

 

「私、アスランが大好きだ・・・!」

「・・・・・・・カ、ガリ・・・!」

 

 

今、溢れてくるこの想いをどうしても言葉にしたくて、
いつもなら素直になれず意地をはって言えないような台詞が自然に声になった。
それに答えるアスランの声も、なんだか震えている。

カガリが自分の背に手を回しているのと同じように、アスランもその手をカガリの身体を包むように回した。

「じかんぎれぇ!」
「おわりー!」

すぐ近くで、子供たちが可愛いヤキモチの声をあげている。
けれど、もう少しだけ
子供たちの前だけれど、もう少しだけ、
互いに抱きしめあった。

 

 

胸に感じる互いの温度、耳元に聞こえる互いの吐息。

時間切れ、と叫ぶ子供たちに申し訳なくなり、そっと、その身体を離していく。

けれど、胸の高鳴りは収まることなく、二人は瞳を閉じてキスをした。

子供たちの前でだけれど、もう少しだけ。もう少しだけ許してくれと。

 

 

 

 

 

ありったけの愛をこめた。

 

彼女にしか贈る事のできない愛を。

 

これから先、何年年を重ね様とも、君にしか贈る事のできない愛を。

 

唇を離したら、また、カガリが言った。

 

 

「ありがとう・・・!みんな大好きだ!」

 

 

我が家の一輪の華は、眩しいくらいに笑ってくれる。
その笑顔が、世界一可愛い。

 

 

 

 

 

 

5月18日。

 

子供部屋のカレンダーが赤く塗りつぶされたこの日は、
俺の世界に、たくさんの贈り物をしてくれた、愛しい人の生まれた日。

 

 

 

 

たくさん、おめでとう。

 

たくさん、ありがとう。


 

そして、これからもずっと、よろしく、を。

 

 

 

 

 

 

 

 

END

 

Happy Birthday Cagalli !!

 

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