突拍子もないことをあっけらかんと言い放つのは妻。
突拍子もないことでも、そのわずかな情報で全てを理解するのが夫。
いきなり畑を作るぞ!と威勢良く宣言すれば、早速行動に移すのが妻。
いきなり連れ出されても笑顔で何でもしてあげる・・・・・・いや、したくなるのが夫。

 

 

 

 

 

愛しい家族の育て方

 

 

 

 

 

「すごい格好だな・・・・」
「う、うるさい!」

上は柄も何もないシンプルな赤のTシャツ、
下は、どこから引っ張り出してきたのか緑色のジャージ。
それを膝小僧まで捲り上げて、白い綺麗な脚を見せていた。
両手には、これまたどこから引っ張り出してきたのかわからない、古いクワ。
スコップやら如雨露やら、畑作り・・・というよりは土遊びに必要なものが足元には転がっている。

そしてカガリは珍しいことに髪をくくっている。
肩までの、どちらかと言えば短めの髪は、髪留めのゴムに入り切らなかった後れ毛が
白いうなじにかかって、色っぽい。
その左の首筋にうっすらとではあるが、昨晩の赤い跡が残ってることを、
多分気付いていないだろう。
気付いていれば絶対に髪をあげたりなんかしないからだ。

そのことを指摘して、照れて可愛らしく怒る姿を見てみようかと
アスランが考えをあぐねていると、カガリの持っているものに目が止まる。

 

「・・・・・・キャベツ・・・?」

 

カガリが手にしていたのはキャベツの種。
緑色の包装に大きく春キャベツ、と書かれてある。

 

なんだか懐かしい。
まだ自分が幼い頃、大好きな母親はこの植物の研究に勤しんでいたのだ。
キャベツがもう1人の子供のように、嬉しそうにその成長を報告してくる姿が大好きだった。

 

「・・・・・・・・・・母さんも・・・キャベツを作ってたんだ」
「そ、そうか・・・!ぐ、偶然だなッ。これ、も、もらったんだ!」
「?」

なんだか様子のおかしいカガリ。

「もらったって、誰に?」
「え!!え・・・えっと・・・その〜!そう!知らない人に!!」

そんなわけないだろう、と、言葉を返すべきだろうか。

ふと見てみればカガリの足元には、畑を耕す道具に混じって一冊の本が置いてある。
コーディネーターの視力だと、その本が何なのかはっきりとわかる。
これまた緑色の表紙には大きくこう書かれてあった。

 

美味しいキャベツの作り方

 

「・・・・・・・・・・この本・・・・買ったの?」
「い、いや。・・・・み、み見つけたんだ!」
「すごい偶然だな・・・・・」
「そ、そうだろっ!すごい!偶然だッ」
「本当に・・・・」

威張るかのように言い張る彼女。
貰った、も見つけた、も言いとおす彼女。
カガリは可愛い嘘を突き通すのに必死で、アスランは笑いを押し殺すのに必死だ。

「植えようか?」

騙されたふりをした。
もしかしたら、カガリもばれていることを気付いてるかもしれない。
どうしてキャベツか?なんて質問は愚問だ。

多分、情報元はキラか、キラの母親だろう。
彼女の温かくくすぐったい愛情が、愛しい。

 


「あ、いちごも植えようか?」
「え?」
「カガリ、好きだろう?2人の好きなものたくさん作ろう」

腕をまくったアスランは、カガリの足元のスコップと本を手に取った。
それは、彼女が今からすることを手伝うよという合図。
彼女がして欲しいことは、何だって手伝うのだから。

「俺と、カガリの好きなもの、たくさん作ろうな」
「・・・・・うん!」

降り注ぐ太陽よりも眩しい笑顔で、彼女はそう答えた。
その笑顔にアスランも嬉しくなって、強く願い思っていることを伝える。


「家族が増えたら、好きなものもいっぱい増やそうな」

 

家族が増えたら

 

その一言にカガリは何も言わなかったけれど、
耳元まで赤く染まったその姿を見れば、わかる。

 

この家族の畑に好きなものが増えるのは、きっとそう遠くない未来だということが・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


「きゃべちゅーきゃべちゅー!」
「きゃべちゅー!」
「こぉら!!」

お揃いの色違いのスコップを仲良く一つずつ持っている息子たち。
子供用のスコップだから、危ないものではないのだが、
長男は振り回して遊ぶものだから、カガリの大声が庭に響いた。
その声を聞いて、二人ともしゅんとなる。・・・それも一瞬のことではあるが。

「泥、ついてる」
「ん」

頬を流れる汗を手の甲で拭った時についた茶色い土を、アスランは指先でそっと取ってあげた。
カガリは礼を述べるとまた土いじりに集中する。

変わらないジャージ姿は色気も何もないのだが、やっぱり白い首筋だけは未だにドキドキと胸が鳴る。
あの頃より長くなった髪は、あの頃と同じようにゴムでくくられていて、
でもあの頃と違って背中までの長さに伸びた髪では後れ毛は見られない。
少しだけ残念に思いながらも、やっぱり、ちらりと見える首の左の跡を見ては
アスランはばれないように小さく笑った。


キャベツキャベツと言いながら、土で山を作って遊ぶ子供たちのそばで、せっせと土を耕しているカガリ。

 

初めて植えた年のキャベツは、とても食べられたものじゃなかった。
カガリはとにかく落ちこんで、アスランが慰めて、
けれど次の日には前日の失敗を忘れたかのように、新たな本を「もらった」と言い張って持ってきて、
カガリはのめり込むようにキャベツ作りに取り組んでいった。
そして次第にこれが、カガリの趣味の一つともなる。
そういえば、自分の母親だってこんな感じで気付けば虜になっていたような気もする。

 


「家族が増えたら、好きなものいっぱい増やしていこう」

あの時言った言葉は、今、少しだけ面積の広がった畑と可愛いはしゃぐ声で叶ったことを知る。

 

 

 

「「いちごぉ!!」」
「いちごはもうすぐだぞ。まだ食べちゃダメだからな」
「「はぁい!!」」

手を休めず如雨露でそのイチゴに水を与えながらカガリは子供たちに言い聞かせた。
可愛らしく母親の言葉に答えを返す幼い二人。
振りまわされていた小さなスコップは、カガリの真似をし始めて、土いじりを始めていた。
でもどう見ても、大きな穴を掘ってるようにしか見えないけれど。

そんな子供たちに聞いてみる。

「ウィリ、ライル。今年は新しいもの何植えようか?食べ物。何が好きだ?」
「けばぶー!!」
「・・・・・・・・・・さすがにそれは無理だな・・・」
「いっそのこと、ケバブ屋でも開くか?」

カガリがけらけら笑いながら言った。
それもいいかもしれない。
子供たちには看板息子になってもらって、のんびり夫婦2人でケバブを売って歩くのも、おもしろいかもしれない。

 

「う〜ん・・・。でもなんかもっとないのか?野菜とか果物とか」
「「りょーりゅきゃべちゅといちごがすきー!!」」

 

元気良く両手をあげて答える子供たち。

 

好きなものがいっしょの家族の畑は、また今年も同じもので面積が広がるのだろうか。

笑い出したアスランとカガリを、双子の息子たちは不思議そうに眺めていた。

 

 

 

 

 

 

END

 

 

好きなものがおんなじだから、おんなじものばかりで埋め尽くされる畑。
久々の仲良し家族でした。

 

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