お詫びの夜まで新婚さんごっこ。

悪い事をしているわけではないのだが、人の目を盗んでのキスはドキドキして悪戯している気分だ。
ばれてないよな、とキスの後二人で顔を見合わせて小さく笑う。

 

そんな事を何度も繰り返していた。

 

 

 

 

 

☆太陽のオレンジ〜新婚さん、延長〜☆

 

 

 


二人で夕食作りは、今日が初めてではない。
優しく、いつだってカガリのそばに居たいアスランはカガリがお願いしなくともさっと隣に立ち手伝ってくれるからだ。
カガリも料理の邪魔になるから、と言ってキッチンから追い出す事はなかった。
最初の頃は、自分よりもずっと上手い包丁さばきに可愛らしく軽い嫉妬を覚えたものだが、
今となってはカガリの方がずっと上手になり、笑い合える過去である。

家族4人おそろいのエプロン、子供達が使うことはほとんどないが・・・

 

「カガリ」

アスランが自分の名を呼んだ。
その声にポトフに使うじゃがいもの皮をむいていたカガリが顔をあげると、

「はい」

そう言って、アスランはデザートのオレンジを口にくわえてカガリの顔へと寄せる。

「え・・!?」

驚いてカガリは手に持っていたじゃがいもを落としそうになったが・・・何とか手に収まったままだった。

「な、何だよ・・・っ」

驚きで口調が荒くなってしまったが、アスランはそれにもめげずにさらにカガリに顔を近づけてくる。
どうやら口移しで食べろ、ということらしい・・・。

「で、デザートだぞ・・・!つまみ食いは・・・っ」

そう言えどアスランが引き下がる気はなさそうだ。
目元がにっこり笑っていて、カガリがこれを食べるまではその恰好から動いてくれなさそうだ。
食べやすく切ってあるオレンジを口にくわえて、少しだけマヌケとも思える恰好にカガリは小さく笑って、
観念したのかそっと唇を寄せてアスランがくわえているオレンジにかぶりつく。
まだ遠慮というか照れがあったせいか、大きく口を開けていたつもりなのに、
カガリの口内には収まり切れず全てを食べる事ができずに一部分をかじるだけとなった。

「・・・あ、甘い・・な」

オレンジのかけらが口の中に広がっていく。
柑橘系の香り、甘くてほんの少し酸っぱくて・・・今朝飲んだジュースと同じくらい美味しく感じられた。

アスランはカガリが食べきれなかったオレンジの半分を自分の歯で齧り飲み込んで、カガリと同じく「甘い」という感想を伝えた。
そして口元に残った残ったオレンジを右指で摘むと徐にそれをまたカガリの口元へ寄せてきた。
今度はカガリも大人しく、アスランが差し出したオレンジに向かって口を開けると、
アスランはカガリの口内へそっとオレンジを摘んだ指を入れてきた。

「・・ん」

アスランの指を噛まないように唇で食むと、また口内に甘い香り。
そしてアスランがぴくりと震えたのがわかり、カガリはいたずらっ子の気持ちでアスランの右手を抑えて指を舐めた。

「カガリ・・・オレンジの蜜・・・たれてきてる」

舐めてくれとは言わずにカガリの次の行動を待った。
するとカガリは臆面なくアスランの指から肘のほうへとたれてきてる少量の蜜を舌で追いかけてきた。
まるで子犬のようにぺろぺろ舐めている姿に、先ほどまで余裕たっぷりだったアスランのほうが恥ずかしくなってくる。

「・・・これ、誘ってる?」

「!・・・ち、違うっ」

自分の余裕のなさを隠すかのようにしてアスランが尋ねると、案の定、カガリはばっと身を引いた。
カガリが舐めたところが空気に触れてひんやりとする。
アスランはくすくす笑いながら、カガリの右の口元についていた蜜の後を舌で拭ってあげた。

「アスランが舐めろって言ったから〜!」
「そんなことは言ってないよ」
「言ったも同然っ」

舌の感触が擽ったそうにカガリが言う。
アスランは蜜のついていない左の口元にも同じようにして舌を這わせた。

「このオレンジ、美味しいな」
「うん!・・・もひとつ食べたいなぁ〜」
「食べる?」
「・・・ん〜・・・でもあの子たちに悪いし」
「もう一切れだけ・・・」

そう言ってオレンジを人差し指と親指で摘むと、カガリの口元へ持ってきた。
今度は食べさせろと言う事か・・・
はぁっとため息をつきながらもすぐさま笑顔になってオレンジ味の甘いキスに酔いしれようと、
カガリは口を開きオレンジに近づいていく・・・

 

ガタっ、と、何か落ちる音がするまでは。

 

ぱっと2人は身を引き離した。

音がした方向へと2人が振り向けば・・・
目をこれでもかというくらい大きく見開けている、次男の姿。

 

あまりにも突然のことだったので、アスランとカガリは固まったままだ。

 

「・・・ぁっ!!お、お、お手伝いしようか・・・と!す、す、す、すみませ・・・!」

 

先に口を開いたのは次男のほうだった。
そのまま床に頭がついてしまいそうなくらいの勢いで頭を下げた後、親譲りの足の早さで逃げるように去って行った。

 

「・・・見られた?」

「・・・うん。見られちゃった」

 

この場合、キスの真っ最中じゃなかったことにホッとするべきか・・・。
それよりも、ほんの少し子供たちのことをすっかり忘れていたことを心の中で謝罪する。
するとなんだか急に恥ずかしくなってきてしまい・・・カガリがアスランから離れようとすると、
彼女のそんな行動はお見通しだったのかアスランは自分の腕の中へがっちり閉じ込め捕まえる。
カガリがぷぅっと頬を膨らませ、上目遣いに見やるとアスランはにっこり笑って・・・

 

そうして『もうひとつのオレンジ』は奥さんに有無を言わせず、楽しく甘くちゃんと頂いたのだ。

 

 

 

 

2切れだけ減ったオレンジ。アスランとカガリのデザートの数が減った。
家族4人での食卓はいつも楽しくて幸せだ。
いつも通りの長男。先ほどの現場を目撃してしまった次男は、
なるべく両親と目を合わさないように努力してるのが見てとれて、アスランとカガリは苦笑した。

でもまぁ・・・3日たてば忘れてくれるだろうと、今までの経験を思い出してこの問題は解決した。

・・・両親のいちゃつき現場を目撃されたのはこれが初めてではないことを思えば、これまた少し恥ずかしいものだが。

 

 

 

 

 

 

 

食事の後、可愛い子供たちにお休みを告げてからの入浴。

一緒に入ろうというアスランのおねだりにカガリもこくんと頷いて、おそろいのパジャマと大きなバスタオルを用意してバスルームへ。
背中の流しあいっこの途中で、アスランの手のひらがカガリの胸を行き来するのはご愛嬌、で。
ぷっくり膨れた可愛い妻が睨んでも、余裕の微笑で対応する旦那様。

そんな2人が仲良くお風呂に入った後は、互いに何も言わなくともアスランがカガリの髪を乾かした。
髪が短いアスランと違い、腰近くまで伸びたカガリの髪は乾かすのに少し時間がかかる。
けれどアスランは、それを手間がかかるとは一切思っていなかった。
むしろ嬉しくてたまらない。

こんなふうに一緒にお風呂に入って背中を流し合って・・・
この綺麗な金色の髪を乾かす役目まで自分のものだと思うと、とてつもない優越感だ。
何より、この時間のカガリは、まるで飼主に甘えてくる仔猫のような可愛さを見せてくれるから大好きなのである。

その飼主役のアスランは、髪を乾かしている途中まだ濡れている金糸に口付けを降らせるのも大好きだ。

 

「こーら、何やってるんだ」

「ちゃんと乾いてるか確かめてる」

「手でわかるだろう?」

「こっちがいい」

 

まるで甘えるだだっ子のように、唇を摺り寄せてくる。
はぁ、とため息をつき、呆れたふりをするカガリも本当は嬉しくて、実のところ先ほどのため息もただの照れ隠しなのだ。

それをわかってか、旋毛にキスをした後、髪の流れに沿うようにして、口付けたまま唇を移動させていく。
右の耳に吐息がかかり、カガリが「ひゃ」と声をあげたのを気にしない様子で、
アスランはひたすらこの行為に没頭していた。


 

 

「あつ・・っ」

と、その声に、夢見心地にうとうとしかけていたカガリがはっとなる。
ぱっと振り向けば・・・アスランが自分の左頬を片手で抑えていた。

どうやらドライヤーの存在をすっかり忘れてキスに夢中になりすぎ、アスランは髪を乾かすための熱風をまともに頬に当ててしまったらしい。

「・・・まったく!恥ずかしいことするからっ」

返す言葉もないのか、カガリのそんな台詞にドライヤーのスイッチを止めながら黙り込む。
だだっ子の次には拗ねた子供のようなアスランの態度に、カガリは小さく笑ってからドライヤーを取り上げた。

「今度は私!ほら、後ろむいて!」

奪ったドライヤーのスイッチを入れて・・・すぐにアスランの藍色の髪に温かい風を当てる。
熱い思いをした旦那様を気遣い、こっそり温度を下げて。
わしゃわしゃと、少しだけ乱暴な手つきでアスランの髪を乾かしていく。


「おまえの髪は短いから、乾かしがいがないな」

そう言いながらも嬉しそうなカガリの声。

「・・・伸ばしたほうがいいか?」

まるで女のような台詞だと、言ったあとに気づいてアスランはカガリが見えないところで赤面する。
カガリがどう思ったか、とその反応が気になったが・・・

「・・・ん。いや、おまえの長さがちょうどいい」

けらけら笑ってそう答えてくれた。
どうやら女のような発言も、あんまり気にならなかったようだ。
アスランはこっそり安堵した。

暫くカガリの細い指が髪に触れてくれる感触を楽しんでいた。
乾かしているカガリのほうも楽しくなってきたのか、知らず知らずに鼻歌が聞こえてくる。
なんて綺麗な声だろう、と、アスランはそう思った。
このまま眠ってしまえば、きっとものすごくいい夢が見れるはずだ。

けれど・・・

 

「はい、終わり」

鼻歌が止まるのと同時にドライヤーのスイッチも切られてしまった。
なんだか物足りなさも感じたが嬉しそうににこにこ笑っているカガリを見て、もっとして欲しいという子供みたいな言葉はぐっと飲み込んだ。

「やっぱり、私みたいなめんどくさがりにその長さはちょうどいいな」

コンセントを引き抜きながらカガリが言う。
その、あまりにも的を射てる言葉にアスランは考える間もなく思わず噴出していた。

「あ、笑ったな!」

カガリの小さな拳が飛んできて、アスランは笑ったままそれを受け止めた。
ぎゅうっと抱きしめて、カガリが反抗する前に抱き上げてベッドに連れて行く。
何かお怒りの言葉が漏れるかと思ったが、大人しくされるがままだ。
と、思っていたのに、頬をむぎゅっと摘まれた。

お返しとばかりに、アスランは怯まずにカガリの顔の至るところに何度も小さなキスをする。
頬をつねっていたカガリの指先の力が緩んだ。

 

「・・・バカ」


「知ってる」

 

とろけるほどの笑顔を向ける。そうすればカガリは頬をうっすら紅く染めて・・・

こうなれば、アスランの勝ちだった。

 

 

 

 

 

「カガリは髪、伸びたよな」

「アスランはあんまり変わってないけどな」

 

ベッドにカガリを降ろすと、すぐさま転がり落ちるんじゃないかと思うほどにごろごろし始める。
ベッドから落ちないようにと、アスランはカガリの腕を掴まえた。
そしてアスランが自然にカガリの髪に触れてくる。
だからカガリもまるで真似っこするように相手の髪に触れる。
さらさらと指の間を滑っていく、その深い青に、カガリはうっとりした。
それはアスランも同じで・・・
何度も何度もカガリの太陽の光を浴びたような金糸を指で撫でたりすくったりして・・・時にキスをして。

 

「俺は・・・あの時から何一つ変わらず愛してるよ」

「そういうクサイ台詞を言うなよっ」

「カガリは相変わらず照れやだな」

「おまえは結婚してからさらに甘くなった!」

 

アスランが覆い被さり、鼻がくっつくほどの距離で二人くすくす笑い合う。

 

「新婚さんは・・・どんな夜を迎えるんだろうな・・・?」

「・・・バカ。私に言わせる気か・・・?」

「言葉攻めっていうのも、たまにはいいかなと思って」

 

あまりにも余裕たっぷりにそう言うものだから、カガリは思案した。
口の端をあげて、さぁ、どんな反応が返ってくるのかとドキドキしながら。

 

 

 

「・・・教えてほしいな。身体で」

 

 

 

両腕を彼の首に回して、まるでキスをおねだりするようにそう言った。

思ってもみなかった彼女の言葉に、アスランは小さくまいった、と呟いて、
紅くなってそうな顔を隠す間もなくすぐさま平静を装い、負けじと向かい合う。

 

「言ったな。覚悟しろよ?」

「結婚した日から毎晩覚悟してるけど?」

 

2人にまた笑いが零れた。
その笑いごと吸いとってしまうかのようにアスランは深い口付けを贈って・・・
静寂の中に、響く吐息と艶やかな互いの声。

 

 

結ばれたあの日から、幾千日目の深い甘い夜が過ぎていった。

 

 

 

 

 

 

 

END

 

ラブラブラブ!アスカガ!ラブ!好きすぎてどうしましょう!
アスカガお子様の双子ちゃんは、こんな現場目撃するのなれっこみたいです(笑)。
だんだんお父様お母様も免疫がついてきましたね〜。
キスの手前に見られたからよかったかな?っていうところがずれてますよ貴方たち!(笑)
一応、カガリ誕生日をお祝いして・・・キラ様ごめん!(笑)
甘くってステキな夜を、これから何千日と過ごしていってくださいませ〜!

新婚さん、延長戦は永遠R(ラウンド)で!

ダメだ・・アスカガめっちゃ好きすぎておかしくなりそうです。
もっと甘いの描きたい!がんばりますっ

 

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