「やぁ!」


「やー!」

 

 

 

 

 


反抗期

 

 

 

 

 


今日は休日。カガリの手料理を思う存分味わえる幸せな日。

作る側のカガリも朝から今日は愛する夫と子供たちに何を食べさせてあげようかと見るからに楽しそうで上機嫌だった。
そういえば最近、子供達の好き嫌いがはっきりしてきたと思いだし、
母親としてこの事実を黙って見過ごせるはずもなく気合の入った子供たちの苦手食材克服料理を考えだした。

苦手なニンジンをとにかく細かくみじん切りにしてハンバーグに混ぜ合わせる。
それから少しずつニンジンの大きさを大きくしていって、最終的には野菜スティックでも食べられるくらいにしたい。
そう思い料理の本に集中しながら、カガリはいつもより一層手の込んだ調理時間を過ごした。

できあがったハンバーグは美味しそうで、とても子供達の嫌いなものが入りこんでるなんて思わせない。
その出来上がりにカガリも自信があり胸を張り、夕食の時間がスタートした。


「「いただきまぁす!」」
「はい、いただきます」
「いっただきまーす」

子供達の声があがると共に、アスランとカガリも同じ台詞を言う。
二人の幼い子供たちは、子供用フォークをぎゅっと握り締めてさっそく大好きなハンバーグに手をつける。
おぼつかない手つきながらも、好きなものを食べる時の二人はびっくりするほどフォークづかいが上手く、
なぜかそんなことが、好きなことや好きなものには集中してしまうアスランとカガリの互いの姿を想像させて二人で笑い合う。
順調に、カガリの苦手食材克服料理は子供たちに美味しそうに食べられていった。
それに油断したアスランがつい言ってしまったのだ。

「ほんとにこれ、ニンジン入ってるんだな」

アスランのその声に、ぴたりと幼い二人の動きが止まる。

「こ、こら!アスラン・・・!」
「え?」
カガリとしては全部食べ切れたところでニンジンが入っていたことを白状して食べ切った二人を誉めてあげるつもりだった。
けれど今はまだ二人の皿にはニンジン入りハンバーグは最初の形から半分以上も残っており、
誉める時にはまだ早い。
実際、子供達二人のフォークを動かす手は止まってしまった。
最悪の結果になりそうで、カガリは頭を抱えた。

「やぁ!」
「ニンジン・・・やー!」

カチャンと音を立ててフォークを置く。
あぁ・・・やっぱり。
さっきまで美味しそうに頬張っていたくせに、今ではもうそのハンバーグを敵を見るような目で見ている。

「ウ、ウィルー、ライルー。ニンジンはちょこーーーっとだけしか入ってないんだぞ〜!」
食事放棄した子供達にできるだけ笑顔で優しい言葉で伝える。
本当はたっぷり入ってるのだが、とにかく今は食べさせることが先決だ。
「ちょっとだけでも、やなの!きらい!」
「ぼくもきらぃー」
1人が言い出すと、もう1人も騒ぎ出す。
双子の可愛いところか悲しいところか・・・こうなったら言い出した二人の言葉を止めるのは難しい。
事の発端を作ってしまったアスランも、慌ててて取り繕う。
「お、美味しいなぁ!カガリの手料理は!」
演技の下手なアスランらしく、その演技は下手だった。

もちろんカガリの手料理はアスランにとって他のどんな食事たちにも負けることのないほど美味しいものだ。
カガリの作ったものを初めて食べた時、感動したくらいだ。
少しは惚れた欲目も入ってるのだろうが、愛情のこもった料理たちはいつだってアスランの舌と心を満たしてくれていたのだ。

けれど今は子供達にハンバーグを「食べさせる」ことが優先で、そのためアスランも演技のような台詞が口からでてしまう。

「もうたべないもん!いらない!」

ウィルがテーブルに転がってるフォークをわざわざ拾って投げ捨てた。
その行動に珍しくカガリが切れた。

「・・・・っのバカ!!!そんなことしちゃダメだろう!!」

投げたその手をカガリがきつく1度叩く。
その痛みからウィルの目に涙が滲んだ。
これで素直になってくれたらいいものの・・・それは願いだけで終わり、
見事なまでの運動神経で子供用の椅子から飛び降りる。
幼い体にはあり得ない、考えもつかない危険な行為で、危ないと二人が言う前に、
けれどもあまりにもその行動は鮮やかで・・・
こういう時間違いなくコーディネーターの血が流れていると思わせてくれるほどだ。
ウィルに続いて次男坊も飛び降りる。またしても危ない、という前に、だ。
飛び降りてやはり少し痛かったのだろうか緑の瞳からは小さな雫が零れていたが、
この子たちがナチュラルの血しか流れていなければ怪我だってしていたことだろう。
そう思えばカガリの怒りもまた膨れ上がる。

「バカ!何やってんだ!」

飛び降りた二人のもとへカガリが傍に行き、どこか怪我でもしていないかその身体に触れて確かめようとした時・・・
「いや!!かーさんキライ!!」
カガリが触れようとしたその手をぱちりと払った。

カガリの時間が止まる。
手を引っ叩かれたこともそうだが、何よりその言葉でだ。
カガリを傷つけるような男はたとえ息子達でも許さないと、アスランも仲裁に入るとともに子供たちを叱りつける。

「こら!ウィル!カガリに謝れ!」
「いや!とーさんはもっとキライ!ダイキライ!」

今度はアスランの時間が止まった。
夫婦二人でその場に固まる。

「いくぞ、ライル!」
「う、うん・・・」
固まったままの父と母を置いて、ウィルは部屋を出て行こうとする。その後をひよこのようについて行くライル。
部屋を出る瞬間、ウィルは振り返った。

「かーさんきらい!とーさんもっとキライっ!べーだ!」
「・・・は、ははうえきらい・・・ちちうえもきらい・・・!」
兄の真似をして同じような台詞を繰り返すライル。
そうして二人はこの部屋の雰囲気を嵐のようにひっかきまわして出て行った。

 

「・・・・き・・・ら・・・い・・・」

呆然とカガリが呟いた。
息子達が生まれてから初めて聞いた言葉は、それほどまでに母であるカガリに衝撃を与えたのだった。

 

 

 


そもそも、息子たちをはじめこの屋敷にカガリに対して「キライ」なんて言葉を使うものは一人としていない。
特に夫であるアスランと二人の愛の結晶である息子たちはカガリの盲目の溺愛者であり、
その態度からもキライのキの字も見つからない。
そんな子供たちが、「嫌い」という言葉を覚えてしまった。
それが深く相手を傷つける言葉だとだけは理解しないまま、「嫌い」は広がっていく。
何かあるたびに「嫌い」だと理由をつけて放棄する。
双子がはじめての子供たちで、まだまだ新米パパとママのアスランとカガリには、
これを止める術というものを知らずただ広がっていく「嫌い」を聞きつづけることしかできなかった。


マーナあたりは「嫌い」と言われても笑顔で「わたしは大好きですよ〜?」なんて返事をしているのだから、
さすがカガリを育てただけのことはあるとアスランは心の底からこの大柄の女性に感動したものだった。
きっとカガリも「嫌い」なんて言葉をたくさん使ってきたのだろう。
そう思えば今回のこの事件も、長い子育て人生のほんの小さなつまづきにしかならないはず。
けれど言われたカガリの落ち込みようはそんなカンタンな言葉では片付かないほどだった。
あれ以来、太陽のような明るさは1日中夜のように沈みこみ、そんなカガリを見るのがアスランは辛かった。

どうすればいいのかわからないまま1週間という日が過ぎ、またカガリの手料理が楽しめる休日がやってきたのだ。

 

 

今日の夕食もハンバーグだった。
けれどニンジンは入っていない。
今日の調理はアスランも手伝って、子供達が大好きなコーンスープもつけてるあたり甘すぎる親だということは自覚している。
けれど今はカガリと子供たちを仲直りさせてあげることが先決で、好きキライ克服はその次だ。
今回は確実に子供たちが悪いせいもあってか、カガリが謝ろうとはしなかった。
それが余計に子供達の「嫌い」の広がりに拍車をかけるの堂堂巡り。
実は先週つかったニンジンがまだたくさん残ってるのだが、今は仲違いの発端となったその野菜を思い出すのはやめておいた。

そうして食卓には、先週と同じ形で実は全然違うハンバーグが並べられた。

「「・・・いただきます」」
「・・・・・・はい、いただきます」
「・・・・・・・・・・・・いただきます・・・」

なんとも暗い雰囲気の食事がスタートした。
どんなに忙しい時でも、休日はみんなで食事というのが今は重たく感じる。

アスランがちらりと子供たちのフォークの行き先を見てみれば・・・
大好きなはずのハンバーグには手をつけていない。
さっきから2人ともコーンスープを口に運ぶばかりだ。
カガリが悲しそうな顔のまま言った。
「・・・・・・ハンバーグ・・・ニンジン入ってないから食べてみろ?」
「い、いや!嫌いだもん!」
「ぼくも・・・き、きらいだもん!」
子供たちの返答にカガリの眉が下がった。
本当は食べたいくせに。なんせ双子の息子達の大好物だ。
子供の意地は可愛いものだが、これ以上カガリに悲しい顔をさせたくないと、アスランも嗜める。
「二人とも、食べなさい」
けれど幼い子供たちに父親の切なる願いは通じるはずもなく、効果は全くなかった。

「かーさんのはんばーぐ、いや!きらい!」
「い、いや!きらい!」

今度はアスランが怒りを爆発させる番。

「いい加減にしろ!!」

子供達が同時に体を震わせた。
本当は大好きな父親が、こんなふうに怒るのなんて見たことがなくて・・・
じわじわと目尻に涙がたまっていく。
少しだけ、その姿に怒鳴りすぎたかと思いながらも、やはりここで厳しくしておかないとと、
アスランは威厳を保ったまま子供たちを叱りつけようとする。
けれども、カガリがアスランを止めた。

「もういいよ・・・アスラン」
「カガリ・・・・・」
「ごめんな・・・ウィル、ライル・・・母さん嘘ついてたぞ」

あれほど頑なに謝ることはしなかったカガリが、唯一自分にあった非を認めた。

「この前のハンバーグにはいっぱいニンジンが入ってたんだ、ごめんな」

そんなの子供たちのことを思ってだろうとアスランは言いたくなったが、
真剣な表情で謝罪するカガリを見ては、その言葉も飲みこまれていく。

「でも今日のは入ってないから、ちゃんと食べてくれ。アスランが頑張って作ってくれたんだぞ?」
「カガリ・・・・・・・・」

自分のことより他人のことを考えるカガリらしい理由だ。
子供たちの頭を順に撫でていった後、カガリは力なく笑う。
それを見た子供たちの碧の瞳には、もういつ溢れかえってもおかしくないくらいの涙。
我慢できなかったのか、柔らかな頬をひとすじ零れた涙をカガリの指がぬぐってあげる。
その優しさに、ウィルは耐え切れなかった。

「・・・・・・ひっ・・う・・っうわあぁぁぁん!!」
「・・・っうわぁぁぁんん・・・!」

1人が泣き出せば、もう1人はやはり同じように泣き出す。
部屋中に響き渡る大声が重なって、子供達の頬には涙がぽろぽろ零れていく。

「ごめ・・なさぁぁい!かぁさんだいすきぃ!」

「うぁぁわあん!だいすきぃ!!」

今度はその言葉と涙に、カガリがつられて涙を流す。
アスランはその光景をまるで雪解けのようだと思いながらも、子供達の怪獣のような泣き声に苦笑する。

「もう・・いいんだ・・・ごめんな」
「ごめんなさぁぁいい!」
「・・・・・ご、ごめんなさぁいっ!」
ぎゅっと、頭をなでてあげた時のように順番に抱きしめてあげたカガリ。

「・・・ひっ・・く・・・はんばーぐー。たべりゅー」

ただでさえ呂律のまわらないような子供たちの言葉が、涙声で余計に滲んでいく。
それが可愛らしくて、カガリは今度は心から微笑んだ。
「・・・っえ・・ん・・ぼくもたべりゅー」
ライルも大好きな母親の笑顔を見て涙を飲みこみながら笑顔に戻り、フォークを手にする。
かちゃかちゃと食器を鳴らす音が聞こえる。
子供達は泣きながら、ハンバーグを口にした。
顔はもうぐしゃぐしゃだ。けれど

「おいしぃねー」
「うん」

涙でいっぱいの瞳が笑っていた。


こうして小さな反抗期は終わった。

 

 

 

 

 


「はぁ・・・・疲れた・・・」

ベッドに潜りこんだカガリが、呟いた。
あの後子供たちはハンバーグを食べ切って、コーンスープもおかわりをした。
それどころか、ニンジンさんも食べりゅー!なんて男らしく宣言したものだから、
さすがにこれにはアスランもカガリもびっくりしたものだった。
とりあえずニンジンさんは、次の機会にということで・・・お腹いっぱいになった後は泣き疲れも重なり眠気が襲ったらしく、
すぐに夢の中へと旅だち今はやっと落ちつき夫婦2人だけの時間となった。

ベッドの中で寝転びながら天井に向けて背伸びするように腕を伸ばすカガリ。
今日は・・というよりこの1週間、本当に大変だったろう。
「お疲れ様」
「ん」
額に感謝をこめてキスをする。
くすぐったいのか少しだけ体をよじってそのキスを受け止めた。
「子育って大変だなぁー」
「そうだな」
カガリが言った言葉に、アスランも賛同した。
きっとこんなもの実際は大変のうちには全然入らないんだろうけれど、
それでもまだまだ勉強することの多いパパとママにとって、とても大きな試練だったのだ。

「嫌いって・・・」
「ん?」
「カガリは言ってそうだよな」
「む。・・・そりゃマーナに言われたけどさ・・・」

信頼している乳母に相談を持ちかけたとき、乳母は笑いながらこう言ったらしい。

カガリ様だって昔、お父様に「キライキライ!ダイキライ!」と言ってましたわよ?

それはカガリをへこませる事実だったが、子供というのはこういうものなのかもしれない。
カガリの父親好きはもう屋敷中に知れ渡ってるということだったのに、それでも言ってしまうのだ。
ましてやそのカガリの血をひいてる息子達なのだ。
でも、カガリの血をひいてるからこそ、素直な部分もありちゃんとわかってくれたのだろう。
ちなみにその言われたお父様・・・ウズミが、言われた直後ショックで放心状態だったということは、
マーナは言わないでおいたのだけれども。

「カガリは今でもよく言うぞ?」
「え?・・・言わないよ!」
「いいや、言うな」
「い・わ・な・い!」

ぷぅっと頬を膨らませて反論する妻の唇を奪った。
カガリは絶対言っているのだから。

「もう!ごまかすなっての!」
「ごまかしてないぞ?」
「じゃ、いつ言ったんだっ?」

怒りながらそう言うも膨らませていた頬が今度は赤くそまったのを見て、アスランのキスはさらにたくさん降ってくる。
額にも頬にも鼻にも唇にも・・・
アスランの手がカガリのパジャマのボタンを1つ外した時、カガリは小さく女らしい可愛い悲鳴をあげた。
それに気にせずもう1つボタンを外して、あいた隙間から手を差し込み胸に触れる。
ぴくりとしたカガリの身体に機嫌をよくして、攻め手を止めない。

「こ、こらぁ!私の話を聞けってば・・・ぁ!」
「聞いてる」
「聞いて・・なぁい!・・・もぉ!そーいうところがキラ・・」

はっとしてカガリは口を噤んだ。
アスランの表情を覗えば、にやりとしてるではないか。

「ほら、ね?」
「も、もう〜〜〜!!」
「いてっ」

ぽかりとアスランの頭を軽く叩いた。
それなのに、アスランのボタンを外す手だけは止まらない。
流されるようにカガリは瞳を閉じた。

 


今夜も甘い夜がやってくる。まずは熱くて深くてとろけるようなキスを・・・。
アスランの唇が近づいてくる。
その甘いキスが始まる前に、カガリがまた呟いた。

 

「・・・・・ホントは世界で1番大好き・・・」

「知ってるよ」

 

カガリの反抗期は、所詮アスランの腕の中でだけだ。
そしてその反抗期が甘い声で終わりを告げるのも、アスランの腕の中でだけなのだ。

 

 

 

 

 

 

END

 

カガリ大好き双子ちゃんの小さな反抗期でした。
実際のパパママはもっと大変なんでしょうね・・。尊敬いたします。
カガリの反抗期は・・・ずっとアスランにだけだと嬉しいな(笑)。

 

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