花風

 

 

 

 

 


陽射しがぽかぽかと気持ちよくて、つい眠ってしまいそうになる。
すぐ隣で小さなあくびをした妻へ小さな笑いを贈ってから、
アスランは目の前で大きな声ではしゃぎ追いかけっこをしている幼い子供達へと視線を移した。
「転ぶなよー」
「「はぁい」」
と答えた瞬間から、転んでいる長男。
けれどすくっと立ちあがり何事もなかったかのようにまた弟と走りまわる。
転んでも泣かない強さはアスランに似たのか、カガリに似たのか。
たとえどっちに似たかわからなくても、無邪気で元気で可愛いその姿は、間違いなく愛しい彼女の姿とだぶらせてくれる。


今日は肌に心地よい温度、そして空はまるで4人のためのような晴天だ。
カガリの手作りサンドイッチをつめこんだバスケットを持ち出して、久しぶりに家族4人でのドライブ。
立場上、あまり人の多いところや目立つ場所には行けないが、家族が4人揃えばたったそれだけでどんな場所だって天国だ。

「おはなー!」

たんぽぽが咲く野原はまるでカガリの色で、眩しいくらいに輝いてくれて幸せな気持ちになる。
きっとそれは子供たちも同じで、だからこんなにも楽しそうなのだ。

「元気だなぁ」

先ほどまで同じく野原を駆け回っていたカガリが、幸せそうに一言呟いた。
君に似たからね、と言えば怒るだろうか?喜んでくれるだろうか?
アスランがどちらのパターンも頭の中でシミュレーションして1人で笑いだすと、カガリが怪訝な目を向けてアスランに言ってくる。
「やらしいぞ」
ごめんと言いながらアスランは子供達が追いかけっこに夢中なのを見て、カガリの唇を奪った。

温かく心地よい天気よりも、温かかくて心地よい彼女の唇。

 

 

 

 

「おはなだよ」
「かあさんにあげよう!」
双子の子供たちは、黄色い世界から見つけた白い花を一房だけ手にとると、嬉しそうに両親のもとへとやってくる。
不安定な走り方は見ていて危なっかしいが、可愛くてしょうがない。

「ふわふわ!」
「あぁ、綿毛だな。この時期には珍しいな」
カガリがそれを受け取りながら息子に言った。
「ふーってしてごらん」
「ふー?」

首をかしげている2人の子供の頭を撫でると、カガリは唇を尖らせて息を吹きかける真似をする。
それが可愛くて、アスランはまたキスをしたくなるのを我慢してみせた。
子供達はカガリの真似をして唇を尖らせる。そうして、ふーっと息を吹きかけた。
ふわり、と真っ白な綿毛が空を舞う。

「とんだ!とんだよぉ!」
「とんだ!とんだ!」

両手をあげて、舞う綿毛を捕まえ様と必死だ。青い空に小さな手が伸びる。
子供はちょっとしたことが大発見になるのだ。
世界が何もかも新鮮で、たったこれだけのことが、新しい世界へと導いてくれる。
そしてそれを見て笑うカガリを自分に見せてくれるのだ。

「ふわふわ、なぁに?」
「これはな、種、だな。うん」

子供達の質問が始まると、カガリも母親の顔になる。
アスランにしか見せない甘えてくる態度も可愛くて好きだけれど、
子供達の前でしか見せない母性溢れるその表情も、アスランを惹きつけてやまない魅力だ。

「どうしてタネとぶの?」
「この種が空へ舞ったあと大地に根付くんだ」
「ねづく?」
「あ・・・えっと・・・」

子供の質問攻撃は容赦がない。だから説明に行き詰まると、その役割は母親から父親へ。
目をきょろきょろさせながら助けを求める姿に心の中でだけ笑いつつ、
アスランは妻のためにもさりげなく助け舟を出した。

「大地の中でまた咲くのを待っているんだよ」
「そっかぁ!」
「そっか!」

質問攻撃はこれで終わりかと思いカガリがほっと小さなため息をつく。
が、一呼吸置いてからまた長男が口をひらく。

「おはなさくー?」

今度は子供らしく可愛い質問で、ため息をついたばかりのカガリも自信をもって答え返した。

「あぁ。咲くぞ!」
「あしたさくー?」
「う〜ん・・・明日・・・は無理だなぁ」
「じゃああさってさいてね!」

どんどん続いて終わりの見えなさそうな質問も、子供たちの可愛い自己完結で終了した。
本当にその姿が可愛くて、なんとしても明後日にたんぽぽには咲いてもらわなくてはいけないような気がして・・・
カガリは自分の考えにくすくすと笑い出した。
そんなカガリをじっと見ていた長男が、カガリに甘えるように尋ねてくる。

「ねぇ?」
「何だ?」
「かあさんは、ふわふわ?」
「え?」
「とうさんに、ふーってされたの?」
「ふー・・・?」

子供独特の例え方をすぐには理解できなかったカガリが、
しばらくの間2人が言う『ふー』の意味を首をかしげながら考えていたが、ふと、いきなりその顔を赤く染め始めた。
ほのかにピンク色だった頬が次第に紅をひいたようになり、それは彼女が照れている証拠だとアスランにはわかる。
一体何を考えているのか。
アスランに小さな悪戯心が芽生えてにやける口元を隠さずに言った。
「ふーって、されたい?」
「バ、バ、バカっ!」
「「されないのー?」」
「えぇ!?・・・だ、だからだな・・・っその・・・あぁ、もう!アスラン笑うな!ず、ずるいぞっ」

隣で小さく笑いはじめたアスランにむかってカガリは頬を膨らませながら抗議の声をあげる。
その間も子供たちは可愛い大きな目をじっと見開いてこちらを向いている。

「俺がカガリをいっぱい愛していっぱいふーしたんだよ」
「!!」
「そっかぁ!」
「そっかー!」

深い意味を探る事もなく、父親の言葉に納得した子供たちは立ち上がって空へと舞いあがった綿毛の行方を追い始める。
けれどすでに綿毛は風に吹かれて飛んでいってしまった後で、2人はがっくりと肩を落とすも、
すぐに持ち前のカガリ譲りの明るさで新しい綿毛のたんぽぽを探すことに集中していた。
そんな2人を微笑ましく見ているアスランと、さりげない大胆な彼の発言に顔を赤らめてしまったままのカガリ。
横目でちらりと非難の視線を向けてみるが、優しく微笑み返されてこちらの負けが決定してしまった。
「ほんとのことだろう?」
「もう・・・・馬鹿っ」
カガリがいつもの台詞を言ったところで、アスランがその顔を近づけてきた。


3度目のキスをしようとしたその瞬間、子供達の声が響く。


「みつけたよー!」
「みつけたの!」


もう一房、綿毛のたんぽぽを見つけた長男が両手で大事そうに摘み取った綿毛を持っている。
アスランとカガリは苦笑しつつも、子供達が嬉しそうな姿を見てすぐに本当の笑顔にかわっていった。


「みててね!」


唇を尖らせて息を吹きかける子供達。
ふわふわと空へと待った綿毛たちに、また小さな手を伸ばす。

 

すっとカガリが立ち上がった。
だから、アスランも立ち上がる。

「種がどこまで飛ぶか見てみるか?」
「「うん!」」

カガリの言葉に無邪気に走り出した子供達の速度に合わせて、カガリも緩やかに走り出す。
少し長めの金色の髪が走りながら揺れていて、それは青空と金色のタンポポと重なってあまりにも綺麗で・・・
アスランは目を細めながら3人の後を追った。
それは不思議な追いかけっこ。


時折、綿毛に夢中のはずの子供達が後ろを振り返り
父と母の姿がそばにいるのを確認してから微笑んで、また前を向いて綿毛に夢中になる。
カガリはその姿に笑いかけ、子供達と同じように自分のそばにいるアスランへ振りかえる。
今度はアスランが微笑みを返して、
そうして、子供達にはないしょでカガリのその手をとった。

その瞬間に、金色のたった1つの花は咲き誇る笑みを見せてくれる。
どんな花だって適わないほどに美しいのだ。

 

繋いだ手を、握り締めカガリの耳元で囁いてみる。
「今夜・・・・ふーって、・・・されたい?」
「・・・・・・・ん」
今度ははにかみながら、YESと答えた彼女の耳にそっとキスをした。
それからまた、伝える。

 

「たくさん、してあげるよ」

 

照れた彼女の繋いでいる指先が熱くなった気がして、
何も言葉がなくともそれがYESということを、アスランはちゃんと知っていた。

 

いつだって、甘い吐息をかけてあげるのは離す事のない、カガリという花にだけ。
こんなにも惚れこんでしまっている自分こそ、
きっと舞いあがるほどに甘い息をかけられたのだと、目の前で輝く金色の花を見てアスランはそう気付いたのだった。

 

 

 

 

 

 

END


なんかちょこっと中途半端な終わり方ですが・・・。アスカガ家族でした〜。
花風はaikoさんの歌。歌詞とは関係ありませんが、タイトルが可愛かったので。
本編でもいっぱい愛の吐息を吹きかけてください・・!
なんなら私が・・・!(爆)

 

BACK

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送