携帯物語

 

 

 

 

 

 

父さんと母さんの部屋の本を借りた。
読み終えた本を父さんにお礼の言葉とともに返そうとしたら、
「カガリの机の本棚に戻しておいて」と言われた。

だから、夫婦の寝室にお邪魔して、机の付属の本棚にその本をそっと並べにきたのだ。
別に悪いことをしているわけではないのだけれど、ここで両親が甘い時間を過ごしてると思うとなんだか気恥ずかしい。


本を返すという目的をすませた俺は、いつまでもこの不思議な恥ずかしさに耐えられそうもなく、
早々と部屋をでることにした。

けれど、気付く。

机のいつもは鍵がかかっている右引出しがほんのわずかに開いていることに。
そしてそこから見える、携帯電話らしき物体。

「・・・・・・・・なんで携帯電話・・・?」

見たことのないものだった。
父さんも母さんもそれぞれ一台ずつ携帯を持っているが(しかもお互いのイメージカラー)
この携帯は初めて見た。使ってるところなんて見たことがなかったのだ。
一体いつ使っているのだろう・・・。
ちょっとした好奇心は大きな興味へとかわっていく。
心の中で双子の弟が、「兄さんダメだ!プライバシーの侵害だ!」と騒ぎ立てるも、
生まれた悪戯心にも似た感覚は押さえ切れず、
そっと引き出しを引いてみた。

母さん!ごめん!
この好奇心は母さん譲りなんだ!

またも心の中で都合のいい言い訳を思いながら、その引き出しから携帯電話を取り出してみる。
手にしてみれば、かなり古い機種だ。
ここ最近では見かけたことのないタイプのもので、最近使ってるんじゃなく昔使っていたものだとわかった。

「・・・・・なんでここに入れてるんだろ?」

使わない古い携帯ならもう廃棄してしまってもいいと思う。
それなのにこの鍵付きの引き出しにしまわれていたことが不思議でしょうがない。
涌き出てくる好奇心はもう止まらない。

俺はごめんと声にだし謝りつつも、そっと携帯を開けてみた。

そこに映っていたのは・・・・・

「父さん?」

この携帯のカメラで撮影したと思われる父さんの写真が待ちうけに使われていた。
待ちうけ写真は古い機種らしく画像もかなり荒い。
けれどそこに写ってる蒼い髪・碧の瞳の持ち主は間違いなく自分の父親だ。

雰囲気がどこか幼くて、顔がちょっと可愛くて、まだ16、7と言ったところだろう。
自分の知らない、自分達が生まれてくる前の父さんだ。

「あぁ・・・そうか」

これは母さんの携帯だ。
きっと父さんと結婚する前の母さんのものだ。
たくさん父さんの写真が残っていて、たくさん父さんからの愛をこめたメールが届いていて・・・・・
捨てられなかったんだろう。

「充電してたまに見てるんだ」
それに気づけばつい微笑んでしまう。

なんて可愛い母親だろう。本当に父さんが大好きなんだ。
父さんはきっとこれは知らないんだろうな。
もしかしたら父さんもおんなじことをやっているかもしれない。
でも恥ずかしがりやな母さんのために、これは秘密にしておこう。

 

にしても・・・・・

「やってることは今も昔もいっしょ、か」

互いのイメージカラーの携帯の待ちうけ画面を、互いの写真にしてる父さんと母さんを思い出して、
今度は大きな声で笑ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


「なんでにやけてるの・・・」
「うわぁぁぁ!!」

部屋を出てすぐに双子の弟につかまった。
まさかここで出くわすとは思っていなかったから、俺はすっころびそうになるくらいに驚いてしまった。
そんな俺を見て、弟のライルは訝しげに俺に言う。
「・・・・なにかあったの?」
「い、いや!ないぞ!!何も・・・!!」
「隠しごとできないの、やっぱり母上に似てるよね・・・」
それはおまえもだろう、と言おうとしても縮み上がった俺の心臓は呼吸をするので精一杯。
それと同時に、にやけてる理由はこいつにならばれてもいいかなとも思ってしまう。

・・・・・いや、ダメだ!
口うるさい上に母親第一主義の弟のこと。
母さんの携帯をこっそり見たとなれば長ったらしいお説教が待っていることだろう。

「な、何も見てない・・・!!」

お説教だけは勘弁と、俺が否定の言葉を口にしたら、
その言葉を聞いてライルは一層眉を深く寄せる。

「なにか・・・見たの?」
「!!」

あぁ、俺の馬鹿。
本当にこういうところ母さんに似てるのかも・・・。
しょうがない。正真正銘、血の繋がった息子なのだから。

「いやらしい・・・」
「な!?」

顔を赤くさせて弟はそう言った。
こいつの視線が父さんと母さんの寝室と俺を交互に行き交う。
そりゃ、こっそり携帯見たのは悪いことかもしれないけどさ・・・
でもいやらしいだなんて・・・

・・・・・あれ?
ちょっとまて。いやらしい?
こいつなんでこんなに赤くなってんだ?

「父上と母上には内緒にしておいてあげるよ」
「あ、う、うん・・・」

赤くなったまま、ライルはそう言って俺の前から去っていった。
その後姿を俺はぼうっと見ていた。

一体弟は、俺が両親の寝室で何を見たと勘違いしているのだろうか。
俺は振り向いて、今出てきたばかりの部屋を見る。
この部屋を使っている、いつまでたっても新婚のような夫婦2人を思い出して、
いろんなことを想像してしまう。
そのせいで今度は俺が赤くなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


「なんで2人赤くなってるんだ?」

父さんが広げていた新聞をたたみなおしたとき、俺とライルにむかってそう言った。

「「べ、べつに・・・」」

言いよどみながらもなんとか言葉にする。
父さんはたたみ終えた新聞をいつもの低位置に置くと、
母さんが淹れてくれただろうコーヒーのカップを手にした。

「そうか?」
カップに口をつける前に、そう言ってからコーヒーを一口飲む。
そしてそのカップをソーサーに置く。かちゃり、と静かな部屋に音が鳴った。

「そういえば・・・・本は戻しておいてくれたか?」
「う、うんっ」
「そうか、それならいいんだ」
「う、う、う、うん・・・っ」
「?」

父さんが、さっきのライルのように眉を寄せた。
しまった。
俺が何かを隠してることばれてしまったかもしれない。
どうしようかと思って弟に助けを求めようとちらちらとライルに視線を合わせると、
こっちを見るなと言うようにその視線を逸らす。
たった1人の兄のピンチに、おまえは薄情なやつだな!
こうなったら、乗りかかった舟ならぬ、乗りかけてやる舟。
こいつも巻きこんでやろうと俺は画策した。
「な、何もないから・・・!本当にっ!な、ライル!」
「え!?」

突然自分にふられた会話に、ライルが大きな声で驚く。
俺はもう1度、双子のテレパシーならぬ視線で『協力しろ!』と伝えると
弟はどもりながらも、この話題から逃げることを諦めたのか父さんに向き直る。

「は、はい。何も見てませんよ・・・!」
「こ、こら!馬鹿!!」

弟の問題発言に俺は飛びあがってしまった。
さっき自分が犯したミスを、どうしてこいつもまた繰り返すのだろうか。
双子だから?母さんの血が流れているから?
どっちにしろ、これは大変なことだった。

「・・・・・見た?」

父さんがやはりこの言葉に反応した。
正直に、母さんの古い携帯を見てしまいました、ごめんなさい、と言えばいいのだろうか。
母さんにそれを言うのはともかくとして、父さんに言うのはまずい気がする。
母さんがきっとずっと隠してきただろう可愛い秘密を、子供である俺からばらすのはなんかイヤだ。

俺が返事につまっていると、父さんが質問してくる。
「おまえ・・・さっき俺とカガリの部屋に行ったんだよな・・・」
「は、はい!!」
普段は俺はライルと違ってあんまり父さんに敬語を使わないのに、
今は緊張のあまり言葉遣いもかわってしまう。

「そこで・・・何か見た、のか・・・?」
父さんが静かに、けれどどこか威圧感があるように尋ねてくる。

「い、いえ!何も・・・見てませんッ!」
「・・・・・・・見たんだな・・・」
「いえ!!」

首をぶんぶん振って否定するも、きっともうばれてしまっている。
あぁ、もう終わりだ。母さんごめん!!と心の中で叫んだ時、
父さんの顔が一瞬で思い切り赤くなった。

「・・・・・そ、うか・・・見た・・んだな・・・」

さきほどの威圧感はどこかへ綺麗さっぱり消え去って、
今目の前にいる父さんは、何故だかおどおどした雰囲気になっている。
男の人にしては白い肌が耳のあたりまで赤く染まって・・・
こんな父さんは見たことがないかもしれない。

「あ、あの・・・」
「言うな!・・・・わかってる・・・。俺の責任だ。ちゃんと隠さなかったし・・・」
「え・・・?」
「・・・・でも、その・・・俺も男だし・・・カガリとは愛しあってるわけだ・・・から・・・」
「は、はぁ・・・」
「自分の子に見られるのがこれほど恥ずかしいとは思わなかったけれど・・・」
「あの・・・父さん・・・?」
「カ、カ、カガリも喜ぶかなとか思ったりしたわけで・・・」
「あの・・・・・・」

1人、話をすすめる父さんに、俺はついていけない。
再度助けを求めようと弟を見てみると、同じように赤くなってる。

俺は携帯を見た。それだけだ。
それがばれてしまえば母さんが赤くなって可愛く怒りの声をあげるだろう。
それは予想できる。
でも、これはどうだ。
真っ赤に染まった父と弟。これは予想外。

・・・・・・まさか、いやまさか。

父さん、とんでもない、それこそいかがわしいと言うべきものを部屋に隠してたんじゃ・・・

 

「・・・・・カガリには内緒にしといてくれ!今晩使うつもりだったんだ!」

 

一体何をですかーーー!!??

 

そう聞きたいような聞きたくないような、泣きたいような笑いたいような・・・・・
そんな初めての感情のせいで、俺も負けずに赤くなったところに、
ぱたぱたとスリッパの音を立てて見事なタイミングで母さんがやってくる。

「あれー?なんでみんな顔赤いんだー?」

母さんのその言葉に、俺と弟と父は、爆発寸前のようにさらに赤くなった。

 

 

 

 

 

 

END


望月携帯おかえり記念作品にちょこっと+。
アスランは一体何を見られたと思ってるんでしょうか(笑)。
でもま、アスランですから。そんなすごいものではないと思います(笑)。

 

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