久々にシンのうちでゆっくりしたらどうか、と、先に言い出したのはカガリのほうだった。

カガリにも弟は一人いるが、なかなか会えないこともあってかシンのことも実の兄弟のように大切にしていてくれる。
それは俺たち家族にとっても嬉しいことだったし、何よりカガリ自身が喜んでくれて、改めてシンの存在を神様に感謝したくらいだった。

 

 

 

ザラ家族物語・番外編―静かな夜にその頃のアスカガ編―

 

 

 


そんな神様の誕生日、クリスマス前のスケジュール表は見るのもうんざりするほどの過密スケジュールで・・・
手帳に詰め込むだけぎっしりと詰め込まれた文字たちを見てると頭痛がしてくるほどである。
それを懸命に二人で滞りなくこなしていき、12月のその日はなんとか時間をとることができた。

「おまえのおかげだ!」

そう言うカガリの顔は、この日を無事迎えられることの喜びで満ち溢れた笑顔だった。あぁ、頑張ってよかった。

 

そして今、学校から帰ってくるはずの弟を、二人でこっそり待ち伏せするかのようにして彼の住むマンションの一室で待機。
仕事の合間を使いながら今日のためにパーティ用の飾りつけを準備していた俺は、部屋の持ち主シンの許可なくもそれで一通り部屋の中を彩らせた。

緑・赤・黄のクリスマスカラーで綴った《メリークリスマス!》の横断幕は自信作である。
そしてケーキを焼き一通り作業終了・・・。

心躍るクリスマス。

本来なら今この時の二人は、他愛もない話に花を咲かせて時折いちゃいちゃして、シンが帰ってくるまで幸せな時間をすごしていたに違いない。
そう、この部屋は暑苦しいわ!!と、いつものツッコミをシンから受けていたはずなんだ。

 


ところが・・・

今日は少しいつもとは違った。違ったのだ。


「・・・・」

ダイニングの椅子に足を組みながら座り、時折時計を確認する以外は腕組みしながら何もしゃべらないカガリ。
疲れもあるのだろうがどんな時でも笑っていてくれる彼女にしてみたら、その見るからにイライラしてますという表情は珍しい。
社会の表舞台に立つにはまだまだ幼い年ではあるものの彼女の波乱万丈な人生はその年齢さえ達観しているようで、滅多に不機嫌を顔に出さない。
大人顔負けなのである。

そんな中で俺に見せてくれる安心しきった笑顔やほんの少し子供っぽい言動はとんでもなく可愛いのだが・・・

「むぅ」

あぁ、その膨らんだほっぺもまるでエサを詰め込みほおばるリスのようで・・・
全然怖くはないんだけれどどうせなら笑顔でいてほしい。


ぷくっと頬を膨らませていたままのカガリが俺の視線に気付いたのか
「なんだ、言いたいことあるならはっきり言え」
と突き放すように言う。

やはりカガリは少し機嫌が悪い。

というものの、小さな事件が起きてしまったからだ。


 

 

さきほどまではカガリや俺もよく利用する超大手デパートで二人で楽しく買い物をしていた。
クリスマス真っ只中ということもあってたくさんの人たちで賑わっていたそこで事件は起きてしまう。

生まれて初めて・・・二人が夫婦になって初めての言い合いになったのだ。

こんなことは今までなかった。
大抵のことはお互いの意見が合致したし、たとえずれがあったとしてもどちらかが思いやりをもって譲り合うことばかりだった。
それがどうだろうか。今回だけは違ったのだ。


そのきっかけとなってしまったのが・・・クリスマスのシンへのプレゼントだった。

「カガリ・・・これ、どうかな?」

賑やかな声が響くおもちゃ売り場の一角で、俺は目に付いた一番気に入ったあるものをカガリに差し出した。
それは、シル○ニアファミリーのうさぎさん一家。

可愛いなとか、それがいい、という言葉もなく、すぐにカガリが「何かおかしいぞ」という表情をしたのに気がつく。
「・・・さすがにそれは子供っぽすぎないか・・・?」
いつもなら自分の意見にはすぐさま賛同してくれるカガリが初めてとも思える意義を唱えた。

小さな子供が喜ぶ大人気シリーズは、精巧な技術を惜しげもなく使われたすばらしい一種の調度品みたいなものだと思うのだけれど・・・
彼女はお気に召さないらしい。

「第一、シンはうさぎさんが好きではないと言っていたぞ」

「え!そんなはずは・・・」

ない。はずだ。
シンが4歳の頃、俺が射的であてた桃色うさうささんをプレゼントしたら本当に喜んでくれた。
あれからシンはずっとうさぎが好きなはずなのだ。

「4歳だろう・・・?子供の時の話じゃないか?」

昔話を始めた俺の話を遮るかのようにカガリは辺りを見回してプレゼントを物色し始める。

「うん、アスラン、それにするくらいだったらこっちの・・・」
カガリが別の棚から持ち出してきたのか、シル○ニアファミリーのうさぎさんシリーズと同じくらいの大きさの箱を俺の目の前に差し出した。
たしかにカガリの選んだものは俺が選んだものよりずっと大人っぽいチョイスだったのだが・・・
「まって、カガリ。それはシンは喜ばない」
「いや、そんなのより絶対こっちのがいいに決まってる」
「違う、カガリ。俺のほうがシンのことはわかっているよ」
「私だってシンの姉になったんだぞ!」

初めての喧嘩はつい大声になってしまい、おもちゃ売り場にいた人たちが一斉にこちらを振り向いた。
さすがに居たたまれなくなった俺たちは、逃げ去るかのようにその場を後にしたのだった。
もっとじっくりプレゼント選びをするつもりだったのに結局、うさぎさんを購入してしまった。
プレゼント用に包装紙に包まれてないのを見ても、あの時の俺たちの慌てぶりが伺える。


「はぁ・・・」

今思うと俺自身は別にカガリの意見に賛同していてもよかったのだ。
こうやってカガリと喧嘩して言葉を交わすことができなくなるくらいなら、カガリの案に賛成すべきだったのだ。
どうしてあの時、俺は意地を張ってしまったのだろうか・・・


人は自分と違う人間に惹かれあうと聞いたことがある。
俺とカガリは正反対の人間で、だからこそ惹かれたともいえるのだ。
性格の不一致なんて言葉で別れるつもりはないし、別れたくない。

あぁ・・・でも、カガリはものすごく怒って離婚を考えてるかもしれない・・・!後悔ばかりが俺を苦しめる。
だ、だめだ!カガリに捨てられたら・・・俺は・・・!


「ご、ごめん!カガリ・・・俺が悪かった!」


「え?」


重い空気に耐えられなくなった俺は唐突にカガリに頭を下げる。
今まで黙り込んでいたカガリが驚いたかのような小さな声をあげ俺を見た。

「なんでおまえが謝るんだ・・・」

カガリを傷つけてしまったからだ。たとえどんな理由でも女の子を、好きな子を傷つけてしまうなんて許されるはずがない。
ひたすら頭を下げ続ける俺に、カガリは穏やかに言った。

「いや・・・アスランのほうが・・・シンに詳しくて当然だよな」

「え・・・?」

顔をあげてカガリを見た。
ほんの少し照れくさそうにうっすら頬を染めながら

「私、少しだけ焼きもちをやいていたのかもしれない。アスランがシンばかり可愛がって・・私こそ、ごめん」

と謝ってくれたのだ。


「カガリ・・・」

ちらちらこちらを上目遣いで伺い見る女性らしい仕草に胸がキュンと鳴る。
カガリなりの照れ隠しだ。普段はしっかり人の目を見ながら話をする子だけれど、俺の言葉に照れた時だけたまにこんなふうにあたふたしてくれる。
やっぱり、喧嘩なんてするべきではなかった。こんな可愛い妻を大切にしなくては・・・!

「俺もだよ、カガリ。俺も時々シンに嫉妬することあるよ。カガリはシンのこと大切に思っていてくれてるってわかってるのに・・・」

「アスラン・・・」

雪が溶け出すかのように俺とカガリの重い空気はすぅっと消え去っていった。

「私たち、馬鹿みたいだな。せっかくのクリスマスなのに、さ」

「あぁ」

俺が頷くと安心したのかようやく笑ってくれた。
喧嘩してしまってからずっと、その顔が見たくてしょうがなかったのだ。

 

俺はカガリに近づく。
メリークリスマス、と、彼女に聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声で耳元に囁くとそのまま耳に軽くキスを落とした。
くすぐったいのかカガリがくすくす笑い出す。
その声は、今日の日のために用意しておいたクリームたっぷりの甘いケーキよりずっと甘い。

「メリークリスマス、アスラン」

不機嫌な彼女はもうここには居なかった。彼女の手が俺の頬にそっと添えられ、それが合図となってゆっくり唇を近づけていった。
いつもの俺の好きな笑顔で俺に触れてきてくれる。たったそれだけのことがこんなにも嬉しいなんて。
俺がカガリからもらえたプレゼントは、ケーキよりもうさぎさんよりもずっと素晴らしく素敵なものだった。
互いにプレゼントは贈らないという約束だったが、カガリもそう思っていてくれれば嬉しい。


残念ながら深いキスはお預けだった。

でも軽く唇が触れ合うと、どこまでも貪欲になってしまって今度は指先で今の想いを伝える。
二人きりの甘い時間が始まったと、いつものように絡めあう、それはキス以上のお誘いの合図のひとつでもあった。

「・・・それは駄目。シンがいつ帰ってくるかわかんないだろ・・・?」

伝わったようだった。でも望んだ答えは返ってこず。

「そうか・・・しかたないな」

「年が明けたら、連休とれるから・・・な?」

「・・・あぁ」

俺もカガリも離れてしまうのが名残惜しいみたいで、いつまでも指を絡ませあい微笑みあっていた。


このまま会話もなく触れ合うだけでも幸せなんだが、そんな幸せな沈黙が続くとそれ以上を求めてしまいそうになるので俺はなんとか話題を作ることにする。

「そ、それにしてもシン、遅いな」

時計はすでにイブの終わりを告げる0時になろうとしていた。
何気なく言ったこの言葉に俺とカガリ、同時に何かにハっと気付く。

 


「「も、もしかして・・・」」

 


二人で顔を見合わせた。突如訪れた緊急事態にお互い少しうろたえてることがわかる。

「あ、アスラン・・・っ」

「あ、あぁ!」

あぁ・・・弟が、ついに、ついに、ついに!可愛い弟がついに、《その日》を迎えたのかもしれない・・!

「喧嘩なんてしてる場合じゃなかった・・・アスラン!」

「あぁ、カガリ!」

俺たちはやはり正反対の夫婦でも意思疎通の完璧な、似たもの夫婦だった。すぐさま行動を開始。

 

メリークリスマス!と掲げられた横断幕を背の高い俺が剥がし
カガリが先ほどまで飾り付けと横断幕作成に使用していた色とりどりのペンやクレヨンを取り出した。
何をやるのか、と聞かなくてもわかる。

「俺に妹ができるかもしれないんだな・・・」

「それは私の妹ってことにもなるんだよな!」

お互い弟はいるものの女の子の兄弟とは無縁だったため喜びも一入である。

「どうしよう、俺おじさんになったら」

「じゃあ、負けずに先に子供作ろう!」

「え!?」

「・・あ、今じゃないぞっ」

期待に満ちた表情をしてしまったらしい。
俺が誤解しないようにカガリが慌てて訂正した。・・・残念。
でもさっきカガリが言ったとおり、いきなりシンが帰ってきたら困るものな。

誘われたり拒まれたり、ドキドキさせられたり・・・いつも俺は振り回されて。


「アスラン、それは後でのお楽しみ、な」


「あぁ」


いたずらっぽく笑うカガリ。そんな彼女に振り回されるのもそれまた一興。

 

 

 

 


そうして、本来の予定通りいちゃいちゃしながら二人、あるものを完成させた。

 

 


『祝・初朝帰り』


の横断幕。

 

 

 


「「おかえりシン!!」」


朝7時、眠気も忘れようやくうちに帰ってきた可愛い弟を出迎える。
そして、目の前に掲げた【祝・初朝帰り】の横断幕。
シンがじぃっと俺とカガリを交互に見た。なんで居るんだって顔をして。そしてそれはなんなんだ、という顔をして。

「あ、これか?カガリといっしょに寝ずに朝まで作ったんだよ」
「あ、寝るといってもいやらしい意味じゃないぞ!ふふふ」
「もーシンはスケベだなぁ、あははは!」
「「あはははは!!」」
「・・・・・・・。」

どうやら恥ずかしさで反論さえできないみたいだ。やはりシンは卒業したといってもまだまだ子供なのだ。
だからこそ俺からのプレゼントもやっぱりきっと喜んでくれるに違いない。

「シン、俺とカガリからクリスマスプレゼントだよ」

「え!」

真っ赤に充血したその目がようやく喜びで溢れかえる。初めてなのに、朝まで頑張ったんだな・・・。

「メリークリスマス!」

カガリの元気な掛け声とともに俺はシル○ニアファミリーのウサギさん一家の箱を差し出す。

「ほーら、シン!おまえの大好きなうさぎさんだぞー」

「な、なんでうさぎなんだーーーー!!!」

「えぇぇーーー!」

な、なぜだ!本気で拒絶された!?どうしてなんだ、シン!!
あぁ、カガリの言うとおりだったんだ・・・・っ カガリが選んだプレゼントにするべきだったんだ・・・!

 

「ほら、アスラン!やっぱりうさぎさんは子供っぽいって!」

 

カガリが子供に戻ったようにきらきらした目をしながら大きな声で言った。

 

「やっぱりねずみさん一家にするべきだったんだよ!!」

 

「どっちもいらねーーーーーー!!!!!!」

 

 

こうしてシンへのプレゼントになるはずだったウサギさん一家はアスハ邸の俺とカガリの寝室にて仲良く同居することとなったのである。

 

 

 

 

 

 

 


☆★☆あとがき☆★☆

メリークリスマス!(笑)アスカガ編でした!
うさぎさんはいつも発情してるらしいので、アスカガの子宝の神様になってくれるやもしれません(笑)。
更新頻度はがくっと減ったものの、やっぱりこの二人が幸せになるようにがんばりますのでこれからもうちのおばか夫婦をどうぞよろしくおねがいします!

 

 

 

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