その日の晩アスランはカガリとの夕食後、自室でシャワーを浴びていた。
念入りに身体を洗ったため、いつもは30分もかからない入浴タイムが
1時間27分もかけて今日は至るところを磨きに磨いた。
その姿は、まるで今から「初めて」を彼に捧げる乙女そのものだ。
そのうち、「優しくしてね・・・?」とか言い出しそうである。気持ち悪い。
アスランが風呂からあがったのは、夜11時を回った時。
新品のバスタオルをわざわざ引っ張り出し、身体をふいてからバスローブに身を包むと
用意してあったまむしドリンクを飲み干す。
そしてウキウキしながらカガリの部屋へ向かった。
☆★☆アストロ物語。☆★☆
だいよんわ:アストロのいぬまに!!なのニャー!
合い鍵でカガリの部屋のドアを開けると、ちゃんと鍵を閉めることも忘れない。
不審者侵入で逮捕されるかもしれないようなことも手慣れたものだ。
「カガリ・・・カガリ」
ベッドでごろんと横になっていたカガリに近づいていった。
その声に、カガリはそうっと横になったまま振り向く。
ベッドサイドの明かりがカガリの金色の髪を照らし、幻想的なその光景に息を飲み込んだ。
今日はあのネコの姿が見当らない。
それがアスランに心からの優越感を味わわせ、さらなる興奮へと向かわせる。
アスランの気持ちはすでに臨戦体勢のためカガリの上に覆い被さろうともしたが、
大切なカガリの身体を傷つけてはならないし、何より久しぶりでドキドキして、
久しぶりだからこそ思いきり優しくしたい。いや、されたい。
枕に顔を埋めているカガリの肩にそっと手をかけて、優しくキスをしようとした。
「・・・アスラン、私、決めたんだ」
「・・・何を?」
カガリがお喋りを始めたので唇を奪う事は諦め、まずはと額にキスをする。
「・・・アストロが・・・頑張るって言うなら、私も応援しようと思うんだ」
「・・・そうだな」
ここまで来てアストロか!?と、内心は嫉妬の炎をメラメラ燃やしていたが、
なんとか声色をかえずに言葉を返すことができた。
いい雰囲気を怒りで壊したくはない。
適当に話を終わらせようとした。
「アストロは頑張ってくるさ!うんそうだな!そうさ!・・・だからそれは置いといて・・・ね?」
アスランとしては精一杯の譲歩。
うまくアストロの話題から遠ざけようと、必死に考えぬいた答えだった。
しかしアストロを心から大切にしているカガリにとってその言葉は、
さっさとアストロのことは忘れようといわれているも同然だった。(その通りだが。)
「・・・それは置いといて・・・?」
暗がりのせいで、カガリがアスランを睨んだことに気付かぬまま、
アスランはその唇をカガリのぷるんとしたピンク色の唇に近づけていく。
ごまかしているかのようなアスランのその言動すべてに、カガリはアストロへの愛情に火をつけた。
「おまえはアストロが可愛くないのかぁ!?」
「ぐをぅ!!??」
カガリのアッパーがアスランの顎に見事にきまる。
顎と首から変な音が聞こえたが、それよりもアスランにダメージを与えたのは、
甘いキスを遮られたという事実。
「・・・・キャ、キャギャリ・・・っ」
涙目のまま痛む顎を抑えながら切ない瞳をカガリに向ける。
カガリの身体はわなわなと震えていた。
「・・・アスラン・・・!おまえは・・・おまえは可愛いアストロを何だと思っているんだ・・!?」
「・・・カガリ・・・」
邪魔な猫さ、と思うも言えず。
「おまえは・・・おまえは・・・っ!!」
カガリが夜ということも忘れて大声で叫んだ。
「おまえは・・・おまえはアストロのママじゃないのかーーーっっ!?」
「!!!」
カガリが叫んだ言葉に、今度はアスランが身体を震わせる番だった。
俺が、ママ・・・?
何のことだかわからないが、いや、深く考えてみれば・・・そうだ。
自分はカガリの愛を身体中に受け止めて頭と手をいためながらもこの世にアストロを生み出した。
自分の腕の中で、そう、この腕はまるで”おくるみ”。
その腕に包まれたアストロを、カガリの前に連れていった時の彼女のあの喜びよう。
スイッチをいれた瞬間の第一声は、まさしく産声。
我が子が生まれた!よくやったな、おまえ!とばかりのカガリのあの笑顔を、
自分は忘れる事はないだろう。
アスランと、カガリの子、アストロの誕生した瞬間を―――
「お、お、おお、俺は今までアストロになんてことを・・・っ!?」
思い起こせばアスランは、我が子アストロに数々のヒドイ仕打ちをしかけてきた。
自分が生んだ子に、だ。
「ちくしょう!!!俺ってやつは・・・っ!」
アスランは自分の頬を一発殴った。
違う。アストロはもっと痛みを受けてきたのだ。
――心の痛みを――!
「アストロォォォォォオオオ!!!!!!」
アスランはその場に倒れ込んだ。
自分がパパではないことに疑問を持つこともなく、
むしろカガリパパにならめちゃくちゃに愛されてもいいとさえ思う。
(なんせ彼はカガリにならピンヒールで踏まれてもいいと思っているような男だ。)
こうして今宵アスランママは、カガリパパとの久しぶりの○○○や△△△や×××の煩悩を
すっかり頭から追い出し、健全な一夜を過ごしたのである。
『今から合格発表をみにいくニャ!』
とメールがあったのは次の日。
そしてそのまた次の日、アストロは宣言通り3日目でアスハ邸に帰ってきた。
つづく。
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