アストロ物語 SP


☆★☆アストロ帰省編最終話・後編/アスラン☆★☆

 

 

 

 

我らがアストロが、

『アスランのおしべー!!』

といらん言葉を覚え騒いでいたその10分ほど前・・・

 

 

 

「さて・・・まずは」


アスランはおもちゃのロボットを手にしていた。
青色が鮮やかなそのロボットは、いかにも小さな男の子が好みそうなものでアスランはふっと笑う。
自分も幼い頃はこんな玩具で遊んだりしたのだろうか?
あまり記憶はないが・・・きっとそうなのだろう。


「・・・さぁ、すぐに終わらせるか」


少しでも早く終わらせて子供たちのもとへ返してあげたい。
アスランは純粋にそう思った。

だからまずは得意分野から手を付けて・・・
一体全体どうすればいいのか途方に暮れそうだった女の子の人形は後回しにすることにした。
尤、アスランはこっそりカガリ専用ドレスや萌アイテムも自分で縫ってきたために、
裁縫もプロレベルの域に達しているのだが
ライバルが乳母総元でもあるマーナなのだからまだまだ上を目指しているところだ。

ぶきっちょなカガリにしてみれば随分羨ましい向上心である。


そんな彼も、機械や電子工作は得意中の得意分野。

あの頃はバカの1つ覚えのように
戦前にはかの歌姫に大量のハロを送り付けたことも今ではいい思い出・・・(歌姫には迷惑な話)である。


さっそくロボットの修理にとりかかったアスランは、
合計5体あったその全てを驚くほどの短時間で完璧に直してみせた。


「さて・・・」


自画自賛するまでもない。本当にこんなことは彼にとって朝飯前なのである。
その、朝飯前の最後のロボットを机にそっと置いたところでアスランはちらりと問題の人形に目をやった。

素っ裸の、パンツ一丁人形を前に一体どこに触れたらいいのか考えてしまう。
人形なのはわかってる。
でもその肌色は精巧に作られているせいか妙にリアルで困ってしまう。
真っ白なパンツははいているものの、それが反対に余計に恥ずかしくなる要因となっていた。

しかも金髪。肩近くまでの金髪・・・。

 

「・・・はっ!!」

 

アスランは何かに気付いた。

 

「こ、このコ、カガリに似ている・・・!?」

 

月色の金髪に、琥珀の宝石そのものの輝く瞳。
アスランはぽっと顔を赤らめた。

なんて愛らしい人形だろう。

カガリに似てるとなればそれだけで愛情が沸いてくる。
まるで自分の子のように・・・・


「そうだ・・・」


アスランはふと思う。


「・・・きっと俺とカガリの子・・・カガリ似の女のコだとこんな感じなんだろうな・・・」


アスランは人形の頬を人差し指でそっと撫でながら目を細め頬を緩めた。

変態だ。


「性格は俺似・・・?いや、でもカガリに似たほうが可愛すぎるし・・・いや、でも・・・いや・・・」


妄想に真剣に悩み込むアスラン。
カガリが関わった彼の脳は誰も付け入ることのできないほどに活発に動いている。

妄想モード突入。


「・・・名前はアンリ。アスラン×カガリ、で、アンリ」


カップリング表記を使いこなせているのが気持ち悪い。


アスラン・愛の妄想劇場、誰も待っていなかった幕開けである。

 

 

 

 

そう・・・アスランとカガリの愛の結晶、アンリが誕生するのは今から1年後。

「となると・・・カガリとオメデタいちゃいちゃは今から数ヶ月後か・・・うん!」

何が、うん!だ。


けれど誰も止められないままアスランの妄想劇場はストーリーを進め続ける。
DESTINYの進み具合ぐらいに滅茶苦茶だ。

 


アンリが産まれたのは朝焼けの眩しい、8月18日。
A.M.6:20
時間指定まで完璧だ。


天使のような産声をあげこの世に産まれてきたアンリはアスランとカガリの愛を一身に受けすくすく成長する。
ママに似たのかパパっこで、パパの後をひよこのようにくっついてくる可愛らしい娘だ。

 

そんなアンリももう7歳、そろそろお年頃。展開は早すぎる。

アスランは今日もソファーの上で大人しく座ってテレビを見ていたアンリににこにこと声をかけた。


『アンリ〜、今日もパパと一緒にお風呂入るぞ?』


いつもならここで元気な『うん!』という声が返ってくる。
けれど今日は違った。


『いやっっっっ』


『えっっっっ!?』


『パパとなんてもうおふろにはいらないもんっ』


『アンリ!?』


アンリはソファから立ちあがるとアスランのもとから駆け出していく。
娘の走り去る後姿はとても可愛らしいものだが、と同時にとてつもなく切ないものだ。

 


「アンリィィィィィィィーーーーー!!!」


現実アスランは椅子から立ちあがった。
ガタンと大きな音がしてはっとなる。

・・・そうだ、これは妄想だ!俺は何をやってるんだ・・・!?アンリ・・・ッ

わかっているならやめろよ。

 

アスランは息を整えるともう1度椅子に腰掛ける。


「お、お、おち、おちつけ・・・お、お、おれ・・・!!お、おちつ・・・つけ!」


呪文のように繰り返していると段々本当に落ちついてきた。
ふぅっとため息をついてから目を閉じる。

あぁ・・・娘に嫌われても、自分にはカガリが居るのだ。


「カガリ・・・カガリ・・・ぃ」


『こらっ、何落ち込んでんだ?』


都合よく妄想カガリの登場だ。
妄想の中でも可愛らしくて笑顔が素敵すぎるところは現実と変わらない。


『カガリ・・・俺、アンリに風呂誘ったけど断られた・・・』


『気にするな。アンリも年頃なんだよ。な?』


『そう・・・か・・・寂しいもんだな・・・はは』


寂しいのはこんなことを妄想しているアスランだ。
が、ここはアスランのいいように進む世界なので誰もつっこんでくれない。
誰か彼をまともな世界へ引きずり出してほしいものだ。


『カガリ・・・カガリは俺のお願い聞いてくれるよな・・・?』


『え・・・!?』


『カガリ・・・一緒に風呂入ろう・・・?』


『あ・・・もうっ、バカッバカバカっ・・・・・・・・・・うんっ』


『ははは!』


夫婦歴が長いからか、アスランの妄想が素晴らしく自分勝手なのか、
(多分後者)
随分妄想カガリは素直に頷いてくれた。

 

 

「ハァハァ・・・!!」

記述しておこう。彼はれっきとしたヒーローである。

 

 

 

が、そんな変態の幸せは長くは続かなかった。

父親として、受け入れなくてはいけない日がやってきたのだ。
それはアンリの20回目のバースデー。


『今日はパパに紹介したい人がいるの・・・』


これからバースデーケーキに灯をつけ1番盛りあがるという時、少し視線を逸らすかのようにアンリは呟いた。
その姿も可愛らしくてたまらないのだが、カガリに似て元気でちょっとお転婆な彼女にしては珍しい。
神妙そうに、彼女らしくない小さく声でアンリはもごもごと喋りはじめた。


『あ、あの・・・ね?』

 

まさか・・・


アスランはイヤな予感がした。

聞きたくない。けれどその場から動けない。
カガリはにこにこしたままアンリの言葉を待っている。


アスランはその場から逃げ出しそうになったが、次の瞬間、衝撃を受けるのである。


『け、け、結婚を前提にお付き合いしてる、イザーク・ジュールさんですっ』


『イザーク・ジュールです』


「イザーーーークーーーーゥ!!!???」


現実アスランはまた大きな音をたてて椅子から立ちあがった。
しかし今度はそのまま現実に戻ろうとする素振りさえ見せずに続ける。


「なぜだ!?アンリ、なぜ君はよりにもよってイザークとーーー!?」


おまえが勝手に妄想しているだけだろう。
妄想アスランは、妄想イザークにもつっかかる。

 

『イザークと20も年が離れてるんだぞ!正気か、アンリ・・・ッ!!』


妄想の中のアスランはアンリの肩をがっしり掴んで、目を覚ませとばかりに揺さぶる。
けれどアンリは頑固だった。ここは何故か思い通りに行かないらしい。


『いや!私、イザークさんを愛してるの・・・!結婚したいの・・・!』


『け、結婚・・・!?』


それはDESTINY第X話で見せた鞄落としに匹敵するほどの衝撃だった。
いつもいつも自分はこうだ。
大切な人の結婚をこんなに辛い形で聞かされる。


あぁ、アンリ・・・おまえまで・・・俺を地獄に落とすのか!
アンリ・・・!アンリ!!!アンリィィイぃイイイイィィィィ!!!!!


もう妄想アスランに現実の声は届かない。
彼は行く所まで行ってしまったのだ。さようなら。

 

誰にも止める事のできない彼の怒りは、相手である白おかっぱに向けられた。


『なぜなんだ!?イザーク!!おまえマザコンの上にロリコンだったのか!?』


ひどい言われようだ。


『そして何故20年間も独り身だったんだぁぁ!!!!』


アスランのイメージだろう。
アスランの中のイザークがあまりに不憫である。


『イヤだ!イヤだイヤだイヤだ!!!アンリは俺と結婚するんだーーー!!』


キャラを忘れてじたばた暴れ始めたアスラン40歳。でも老けるのはイヤだったのか見た目そのまま。
そんなアスランのまるで幼稚園児に戻ったかのようなワガママを止めることができるのは一人だけだった。


『アスラン!!!』


『!!』


びくっとアスランの身体が揺れた。
振り向けばカガリが目を吊り上げてこちらを睨んでいる。


『カガリ・・・っ、』


『アスラン!おまえは娘の幸せを願わないのか・・・!?私は願うぞ!』


『ママ・・・』


アンリは大好きなママの言葉に涙を零している。それはとてもとても嬉しそうに・・・
それを見たアスランも心が揺れた。
アンリが産まれた時、このコが誰よりも幸せになることを願ったのだ。
今、それが叶えられようとしているのなら、笑顔で送り出してあげるべきだ。

それが父親なのだから。


『・・・イザーク・・・娘を頼む・・・』


『・・・アスラン!!』『パパ!!』


カガリとアンリが同時に声をあげる。
笑顔までおんなじで、アスランは小さく微笑んだ。
この顔が見られるのなら、自分はどんなに辛いことだって絶えられるのだ・・・。


イザークも微笑んでいた。彼はアスランに歩み寄る。
そっとその右手を、親愛の証として差出して・・・


『・・・ありがとう、お義父さん』


『だれがお義父さんだぁぁぁぁぁーーーー!!!!!!』


差し出した手を払いのけてお義父さんは叫んだ。


『だれがお義父さんだぁぁぁぁぁぁーーーー!!!??』


・・・・。


とにもかくにも、アスランは大人になったのだ(信憑性低し)。

 

 

 

この妄想の中で、妄想アスランは色々と考えたのだ。


・・・きっとウズミ様もご存命だったらこんな気持ちだったに違いない。
可愛い一人娘を、どこの馬の骨ともこけしともわからない男に連れ去られるなんて・・・
あまつさえ毎夜毎夜ピーとかピーとかピーーーとか・・・!!あぁ・・そんなことまで!?
とにかく乳繰り合って(古い)いちゃいちゃするんだ・・・!くそっ!!!


アスランはその立場になってみて初めてわかったのだ。
父親というものがどれだけ苦しく辛いものか・・・
そして、その苦しさを乗り越えて・・・娘の幸せを他人の男に任せなくてはいけないことを。
彼は大人になった。

 

目を閉じて深く思う―――


あぁ・・・今ならウズミ様に、ボコボコに殴られてもムチで打たれてもヒールで踏ん付けられてもいいさ・・・


それちょっと違う。

 

 

 

 


そうこうしてるうちに呪いの・・・いや、祝いの日はやってきた。
来て欲しくなかった娘の旅立ち・・・そう、嫁入りの時。


リーンゴーン。
ありきたりな鐘の音が美しく鳴る。
BGMは今流行りのラブバラード。


今、アスランの目の前にいるのは純白のドレスに身を包んだ、我が娘、アンリ、妄想。


『・・・綺麗だよ・・・アンリ』


まるで自分と結ばれた時のようなカガリだ。
やはり親子だった。
その眩しいくらいの美しさはアスランの心を優しく鳴らしていた。


『パパ・・・ワガママいってごめんね。でも、私、イザークさんと幸せになるっ』


『・・・そうか・・・そうかそう・・・か・そう・・・か・・そうか、そうかそうか・・・そう・・・か・・・』


まだ諦め切れないようだ。さすが諦めだけは悪い男。


でもこれからカガリと2人きりの生活になるのだ。
それはそれでとても幸せなことだ。

いくつになってもカガリを愛している。

そのカガリと、また新婚の時のようにいちゃいちゃい乳繰り合う(古い)ことができるのなら、
それは本当に幸せなのだ。

 

そして今、娘もその、乳繰り合う幸せを手に入れようとしている―――

 

『アンリ・・・幸せにな・・・っ』


『・・・うん!!』


その笑顔はカガリにうりふたつ・・・自分の愛する妻にそっくりで・・・


アスランはアンリに手を伸ばした。
その柔らかな身体を受け止めるようにして抱きしめる―――

 

『アンリ・・・っ』

 


俺と、カガリの、あの晩の乳繰り合いの結晶―――

 


「アンリ・・・っ、アンリッ」

 


自分の声が涙で滲んでいる。きゅっと胸を締め付けられた。

 

頬を摺り寄せる。

 

 

 


柔らかい・・・?いや、少し固い。

 

 

 

 


思ってるより固い・・・不思議な形・・・・・小さい・・・・・・・

 

 

 

 

 


『アスランのおしべーーー!!!』

 

 

 

 

 

 

そう、俺の、おしべ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『アスランが人形さんに頬すりすりしてるニャー!』


「・・・・・・・・・」


アスランはゆっくり瞳を開けた。
今まで抱きしめていたはずの、カガリとの愛の結晶、アンリの姿はそこにはない。
変わりにあったのは、自分の両手の中にすっぽり納まった、金髪の小さなお人形さん。


『アスランが変態だったのニャー!』


「・・・・・・・」


アスランは今度はゆっくり振り向いて見た。
そこには可愛い奥さんの、いや、恋人のカガリと、この手で生み出した息子アストロ・・・


「あ、あ、あすら・・・ん・・・!?」


アストロは変わらず、きゃっきゃとはしゃいでいる。
カガリは、驚いたような何か見ては行けないようなものを見てしまった人間の顔をしていた。


「・・・・・・・・・・・あれ?」


アスランは考えた。今、自分は何をしている?

あぁ、どうやら裸のお人形さんの頬に頬擦りしているようだ。
なぁんだ。そうか。


「・・・ははは!って、えぇぇぇええええええええええ!!??」

 

万事休す。
彼は妄想に浸りすぎて、愛する恋人にとんでもない現場を目撃されてしまった。


『アスランが変態だったのニャ〜!でも大丈夫!だってもう知ってたのニャ〜!』


それは慰めか?


「あ、あ、あすら・・・ん・・・!おまえ、人形がよかったのか・・・!?」


カガリが涙目でアスランをじっと睨みつけた。


「き、金髪なら、人形でも・・・ディアッカでもいいのかよ!?」


それはないと信じたい。

でも今のカガリはパニック状態だ。

恋する乙女とは不思議なもので、アスランは真面目で優しくて誠実で素敵でかっこよい、
何より一途な人だと、口に出さなくとも思っていたらしい。
人形に頬擦りする彼を見て・・・変態ということが気になるより
自分以外の女の子(人形だ)にそんな興味を持って接してることが悲しいのだ。

カガリもカガリでかなりのアスランバカであった。

 


「か、カガリ・・・違う、これは・・・っ!」


「バカ!聞きたくない!私ばっかりアスランを好きで・・・っ」


「バカ!カガリ・・・俺のほうが・・・!」


「バカバカっ、私のほうが・・・っ」


いつもと同じケンカが始まった。

これが始まると大抵最後は強制的にラブラブで締めくくられる。
それを知ってるからアストロは暢気だ。・・・彼はいつも暢気であるが。


『似たもの夫婦ニャ〜』


なぜだか楽しそうにそう言って笑った。


『ケンカするほど仲良しっていうよね♪・・・アストロもカガトロに会いたいからかえろっと!・・・よ』


リュックサックを降ろして修理後の玩具を積め込むとまたリュックを背中めいっぱい背負いなおす。
もちろん裸のままのリガちゃんも忘れない。

 

『このコ、カガリに似てるのニャ〜』

 

それもそのはず。

実はこれ、4年前カガリ様15歳生誕記念にウズミ様の鶴の一声で生産された、
ラブリードーター・カガリ様なのである。
アスランやアストロがカガリに似てると思うのも当たり前だ。カガリそのものを象っているからだ。

いつの時代も親ばかとは恐ろしい。


けれど、どんなに似てようと似てまいと、あそこまで妄想に浸れるアスランは別次元であるが。

 


『よいしょ』


立ちあがると、まだケンカの途中のアスランとカガリが見えた。


『アスランとカガリに会う前にマーナに洋服頼んでおいてよかったニャ〜♪とりにいこっと♪』


ちゃっかり者である。さすが、アスランの手から産まれてきたコだ。

 

 

アストロはいちゃいちゃ喧嘩してる2人にこっそり別れを告げて部屋を出ようとする。
ラブラブなケンカの声は耐えない。


「こら、俺のほうが好きって言ってるだろっ」


「え・・・あ・・・きゃ!んーーー!!」


『夫婦喧嘩はニャンコも食べないのニャ〜』


アストロは部屋を出た。
あっつい仲直りのちゅーをぶちかましていたアスランとカガリに向かってそう言って。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇねぇ、赤ちゃんのつくりかた、わかった?」

孤児院に戻りそう尋ねられたアストロは子供たちにこう答えた。

『アスランとカガリのようにいちゃいちゃしてればいいのニャー♪』

その言葉に、オーブの未来を担う子供たちは初めて満場一致で納得したのだった。

 

 

 

そしてその日から子供たちの間で「おしべ」というコトバが流行ってしまったのは、
オーブ代表首長最大のスキャンダルだったに違いない。

 

 

 

 

 

 

 

おしまい♪

 

ありがとうございましたのニャ〜!

 

 

 

 

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