HUMMING

 

 

 

 

 

「アスラン!」

クサナギのブリッジを抜け、AAに戻ろうとしていたアスランを呼びとめたのは、
彼が焦がれる少女の声。
こちらに向かって手招きをしている。
もしかしたら会えないまま帰らなくてはいけないと思っていたところ、
思いがけず出会えたことが嬉しくて、すごく喜びたい感情をなんとか抑え、その手のほうへと寄っていった。

「どうした?」
「いいからいいから」

先を行く彼女のあとについていく。
近づきすぎず、離れすぎもせずに。
それは、今の2人の関係のようでもあった。
アスランは苦笑いを浮かべ、ただカガリのあとを言葉なくついていった。

 

カガリが急に立ち止まる。
部屋のロックを解くと、自動のドアがすっと開いた。

「ほら、入れよ?」
「え・・・、でも・・・・ここは・・・・」

ここは彼女の部屋だ。
恋人でもない男が入っていいものだろうか?

「はやく!」
「あ・・・あぁ」

深く悩む間もなく、カガリの声を聞き慌てて部屋の中に入る。
きちんと整頓された部屋は質素で飾り気がないもののはずなのに、
彼女の部屋だということだけで輝いてみえてしまう。

 

ベッドに座るように、視線で促された。
それに大人しく従う。
座ったことを確認したカガリが、うん、と小さく頷いた。

「私、クリスマスって大好きなんだ」

いきなり何を言い出すかと思えば

その言葉は、アスランの予想を超えたものだった。

 

 

ここは戦場だ。
そればかり考えてぴりぴりした空気に包まれるのもいただけないが、
だからといってバカ騒ぎをしていい時でもない。
ましてや、クリスマスだなんて時期はずれもいいところ。

しかし、何か言おうとしたアスランは、
カガリが嬉しそうに笑っているのを見て何も言えなくなってしまった。

 

 


そのカガリはというと、机の中から何やらはさみを取り出して、白い紙を切り始める。
笑顔のまま、彼女の口からはジングルベルのハミングが聞こえてきた。

「・・・・・・・・・うまいな」
「お世辞はいいよ!」
「・・・・・・・ほんとだよ。・・・ラクスの歌よりいい」
「ラクスファンに殴られるぞ!」

言葉こそ彼女らしいものだが、その顔は笑みだった。
かの歌姫よりも、と誉められたのが本当は嬉しいみたいだ。

 

はさみを動かしていた右手が止まった。
どうやら切り終わったみたいだ。

白い紙は3つの三角が連なって切られている。
これが一体なんだというのだろうか?
「クレヨンがなぁ・・・ないんだよなぁ・・・」

机の中を覗き込む彼女が独り言を呟く。
さすがにクレヨンなんてものは戦艦には置いてないだろう。

「しょうがないか」

諦めた顔のまま、その紙を持って俺の前にくる。
目の前に白い紙をつきつけて、

「いいか、これは緑だ!み、ど、り!!」

と大声で言った。

どう見ても白・・・・・・なんて
子供騙しの暗示も、彼女から発せられると信じてしまう。
もう俺は重症だ。
緑、のその紙は、次第にあるものに見えてきた。

「・・・・・・ツリー?」
「そうだ!」

 

当ててもらえたことが嬉しいのか、カガリはまたジングルベルをハミングし始める。
柔らかな声が、部屋に響く。

「・・・・・・・・・大変な時ってわかってるけどさ・・・」
「え?」
「・・・・・・・・・・・でも、笑っていたいだろ?」

少しだけ寂しそうに言った彼女。

 

「早く平和になって、クリスマス迎えたいな!」

 

照れ隠しなのか、俺から顔を逸らしてもう1度、口ずさむ歌。
柔らかく温かく、心に響いて。
その声を聞いていたら、歌は苦手なのになぜだか自然に自分の口からも音が奏でられた。

「・・・・うまいな」
「お世辞はやめろ」
「ほんとだってば。ラクスの歌よりいいぞ?」

けらけらと笑う彼女。
・・・・・・どうやら少しだけお世辞も入ってるみたいだ。

 

「それじゃあ・・・・」

すっとベッドから立ちあがった。
笑う彼女の前に歩み寄る。

今は、まだ、近すぎず遠すぎず
触れることは駄目だけれど。

けれど

「今年のクリスマスは、2人でお祝いしようか?」

「・・・・・・・・・・楽しみだなっ」

 

戦場だろうと、なんだろうと、彼女が笑ってくれればいい。
いつかやって来るクリスマス。

 

君が笑ってくれたらいい

2人で笑えていたらいい

 

 

 

 

BACK

 

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送